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62、告白③

休みが明けた次の日、学園から帰るとお父様の執務室に呼ばれた。

部屋に入ると、難しい顔のお父様が机の前に座っている。机の上には一通の手紙。


「お父様、お話とは?」


「うむ。実はフェレール家から手紙が来たんだ。お前とユーリウス君を婚約させたいとのことだ」


「えええ?!」


「びっくりするだろう?」


「い、一体なぜそんなことに……」


悪女の私と婚約したいだなんて、何故そんなとんでもない申し出が来てしまったのだろう。


「そうだろう。カレンにはもうイリアス君という婚約者がいるから、断ろうと思ったんだが、手紙にはその旨も書かれていた。『お相手がいるのは存ぜれど、幼き頃のこと。時過ぎれば、また気持ちも移り変わる。人生が左右される一大事において、本人同士の気持ちが何よりも大事』とあってね、これを読んだとき私もまさにそのとおりだと思った」


お父様が手紙を握りしめ、顔をあげる。


「改めて問いたい。カレンの気持ちは今もあの頃と変わらないだろうか?」


「えっと………」


イリアスと結婚したいと言ったのは、私じゃないからどう答えていいかわからない。私が答えないのを迷いととったのか、お父様が息を吐いた。


「カレン。私はお前には本当に好きなひとと結ばれてほしいと思っている。それが娘の幸せを願う親としては当然のこと。お前に迷いがあるなら、私も真剣にこの話を考える必要がある――」


「ちょっと待ってください!」


この婚約話は公爵ひとりだけの独断ではないのだろう。もしまかり通るなら、ゲームの中でもユーリウスの婚約者がいないとおかしくなってしまう。つまり、この婚約話はユーリウス自身からの申し出ということだ。

それに気付いた途端、頬が熱くなるのを感じた。先日の光景が頭をよぎる。抱きしめられて、囁かれた言葉が蘇る。


『今この時はあんたが俺のもんだって実感できるから』


ユーリウスは本当に、私が好きってこと? ずっとからかわれているとばかり思ってたけど、本当は本心だったの? 婚約云々の前に、そのことで頭が回らなくなる。

恋愛初心者の私にとっては頭がパンクしそうな事態だ。

頭がくらくらしている私がわかったのだろう、お父様が助け舟を出してくれた。


「どうやら、カレンの中でも戸惑っているようだね。ユーリウス君からも事前に聞いていなかったようだし。とりあえず、ここはふたりで話し合ったらどうだろう? ひとからあれこれ言われるより、当人同士で話し合うのが一番早い」


確かに。一度ふたりで話し合う機会は絶対に必要だ。ユーリウスから直接気持ちを聞くまでは確定ではないし、私の勘違いだったら、恥ずかし過ぎて目も当てられない。


「はい。わかりました。そうしてみます」


私は顔をあげて頷くと、お父様が目を和らげた。


「ああ。そうしてみなさい。でも、これだけは伝えておく。私はカレンの幸せを一番に願っているよ」


「ありがとうございます。お父様」


私は思わずお父様に駆け寄り、その胸に飛び込む。暖かい腕に抱きしめられ、ほっとしながらも、ちょっと別の考えが頭をもたげる。

ゲームのカレンがあれほどわがままになったのも、このお父様の優しさもあるわねと。

改めて家族思いのお父様のために頑張ろうと心に決めた私なのだった。




翌日のお昼休み、私は早速ユーリウスを呼びに教室まで足を運んだ。教室を覗くと、ユーリウスがすぐに私に気付いてくれた。


「カレンじゃん。どうしたの? もしかして一緒にお昼とろうとか? 言ってくれれば俺から行ったのに」


私のほうまで歩いてきて、扉の上に手をかける。体格があって、イケメンじゃないと様にならない格好だ。いちいちキマっているのが憎いわね。


「ちょっと話があるの。できれば落ち着けるところでしたいの」


「わかった。支度してくるからちょっと待ってて」


再び自分の席に戻っていくユーリウス。

その間、クラスの女子の視線が私に集まってくる。


「ユーリウス様が誘いに乗るなんて――。誰なの、あの子」


「私たちがいくら誘っても断られるのに」


コソコソと話す声が聞こえる。

イケメンって、不便ね。いっつも注目の的なんだから。

これ以上余計な視線を浴びないよう、小さくなって縮こまっていると、ユーリウスがやってきた。


「おまたせ」


「うん、じゃあ行こう」


しばらく廊下を歩いていると、今度はミレイアが向こうから歩いて来るのが見えた。

あの一件以来顔を合わせることなく過ごしてきたけど、どうやら私の存在に気がついたみたい。

私の横を歩くユーリウスに気がつくと、目を尖らせた。ちなみに後ろにいたミレイアの取り巻きたちも目を鋭くさせる。

彼女たちの視線を受け、なんだか、ミレイア、ゲームの『カレン』みたいだなと思ってしまう。他のライバル令嬢と違って、カレンはイリアスが好きなのに、ヒロインが他の攻略対象者と仲良くしていても突っかかってくるのだ。

まさか、あなたまで私の命狙ってこないわよね。

ドキドキしながら歩を進めていると、幸いにも何事もなく通り過ぎた。ほっとして胸を撫で下ろす。

無事中庭に到着すると、私はユーリウスに向き直った。


「昨日、あなたの家から手紙が来たの」


「ああ。祖父さん、出してくれたんだ」


「書いてあった内容、本気なの?」 

 

「ああ。本気」


ユーリウスの目が楽しそうに輝き、口の端をあげる。 

これはもしや、またからかわれるのかしら。


「私がイリアス様と婚約してるの知ってるわよね?」


「あいつじゃないと駄目なの?」


途端、ユーリウスがすっと表情を消し真面目な顔つきになった。

こちらに向けて、足を踏み出してくる。

上背のある彼に迫られると、追い詰められた獲物になったような気がして、無意識に体が退いた。

一歩、ニ歩と進んだところで、トンと、壁に背中がぶつかった。ユーリウスが私の目の前で立ち止まった。その顔に影ができたせいで、一層真剣味が帯びる。


「俺は家柄だって血筋だって、能力だって、引けをとらない」


私の手を取って、引き寄せる。


「なら、俺が婚約者になってもいいだろ?」


私の手を包み込んで、頬に添わせる。自分の手と唇の間に挟んで、まるでキスを贈るかのような形。でも、ぎりぎり当てていない感じ。

少し横を向いているせいで、はっきりとわかる男らしい顎の線。すっと通った形のよい、でも逞しさも感じる鼻筋。そして、いつもより深く、濃い赤い瞳。

私の視界がユーリウスによって埋め尽くされる。追い込まれた獲物のように、私の心臓がうるさく早鐘を打つ。

凄まじい色気に当てられ、思考が一瞬時の彼方へと飛び立ったけど、砂粒ほどの理性をかき集め、なんとか言葉を紡ぐ。


「ど、どうして……」


どうしてそんなに私の婚約者になりたいの。

動揺のあまり最後まで言葉は続かなかったけど、その先をユーリウスは正確に読み取った。

頬に寄せた手を握りしめたまま、ユーリウスが私をじっと見つめる。


「あんただけが俺の心に触れられるんだ」


雷のような衝撃が私の身を貫いた。

ゲームの一場面が砕け散って、私にばらばらと落ちてくる。


『あんただけが俺の心に触れられる』


ユーリウスの唇がとうとう私に触れた。下目遣いの流し目で、まるで私に見せつけるみたいに手のひらに唇を押し当てる。それでいて、相手の反応は少しも見逃さないかのように。

まるで捕らえた獲物が自分の手の中で、どんな反応をしているのか、逐一観察しているような目。

私の様子を視界におさめて、まるで味わうように瞳を閉じた。

あまりの衝撃と色気に、私はずるずると、壁に沿って落ちていく。

途中、カクンと足の力が抜けて倒れそうになると、


「おっと」


ユーリウスが背中に手をあてて、支えてくれる。

そうして、間近でユーリウスの顔を見つめることになった私は――


ボンッ――――!!


頭の中が破裂した。そのあとどうやって教室に戻ったのか、どうやって家に帰ったかはあまりの衝撃で思い出せない私なのだった。





ユーリウスのイベントはカレンがユーリウスと出会ったときにフラグ(祖父とのわだかまり解消)を折ってしまったので、ありません。

ユーリウスの出番の場を奪ってしまったので、その分ユーリウスにはカレンとの絡みを多めにして、手心を加えさせてもらいました。(あと、他の攻略対象者と違って、四年間ずっと一途にカレンを思っていた背景もあったため、デートさせてやりたいという私の気持ちもありました(^_^;)イリアスの場合は四年間、一ヶ月には一回は必ず会っているので(その間、デートも何回もしてるでしょうし。カレンはデートだと思っていないと思いますが(汗))でも好きになったのは、ユーリウスのほうが先です。イリアスの場合は信頼関係を築いて徐々に好きになっていった感じです)


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