58、告白②
サブタイトルで、バレバレです。(^_^;)
休みが明けた翌日。
私は胸を張って意気揚々と登校した。
完璧だわ。胸ポケットには〈身代わり人形〉。スカートのポケットには〈ユニコーンの角笛〉が入っている。
まあ、悪女のこの私が本気を出せば、この程度のガード力なんて朝飯前よ。おほほほほ。
まあ、朝食前に制服のポケットに入れただけなんだけど。
これでガブリエラがどこからどう攻撃してきても防げるわね。
さあ、どこからでもかかってらっしゃい!
私が闘志を漲らせて廊下を歩いていると、声がかかった。
「あ、カレンさん」
「先生!」
振り返るとラインハルトが立っていた。
「ちょうど良かった。カレンさん、ちょっとお願いできるかな」
「なんでしょう?」
「授業で配るプリントが多くて、教室まで持っていってくれると助かるんだけど。頼んでもいいかな」
「もちろんです!」
困っていたら、助けるのは人として当然のことよね。
「ありがとう。準備室においてあるから、一緒にきてくれる?」
「はい!」
私はラインハルトと連れ立って、数学準備室へと入っていく。
「そこに置いてあるのがそうなんだ」
指し示された机の上に数種類のプリントが乗っている。
「これ全部ひとりで持っていくのは大変ですね。これとこれ、持っていけばいいですか――」
プリントを持とうとしたところで、突然鼻先にコップを差し出される。
「はい、どうぞ。手伝ってくれるご褒美。まだ時間、大丈夫そうだから」
振り返ると、ラインハルトが両手にコップを持って、微笑んでいた。カップからは香ばしい湯気が漂っている。
「コーヒーですね! ありがとうございます。いただきます!」
香りに誘われて思わず受けとってしまったけど、ん? 待てよと首を傾げる。
コーヒーをこちらに差し出すラインハルトの姿、ゲームのスチルで見なかった?
確かヒロインへの好感度がかなり高かったときに見た気がするんだけど……――。
どうして私に?!
いや、でもご褒美って言ったし。手伝うお礼で深い意味はないわよね。うん、きっと。
コーヒーを飲みながらそっと伺うと、視線が合う。
「砂糖入れてなかったけど、大丈夫?」
「はい。美味しいです」
「良かった。でも、どうしてかな。砂糖を入れてないはずなのに、今日は甘く感じる――」
「え? どうしてでしょう」
私が首を捻ると、ラインハルトが私に視線を合わせて微笑んだ。
「カレンさんがいるからかな」
へ?! 私?!
「カレンさんが一緒だと、コーヒーも甘くなってしまうみたいだ」
カップの縁越しにラインハルトが目を細めて視線を送ってくる。
途端に私の心臓が早鐘を打ち始めた。
なにその、甘い微笑み?!
攻略対象者って、本当罪作りね。
私が悪女じゃなかったら、間違いなく「先生っ!」って言って目を潤ませて見つめ返しちゃうところよ。
窓からの陽の光がラインハルトを照らして、茶色の髪が透けるように光っている。こちらを見つめてくる緑の目も、光を反射してるかのように表面が光っていて綺麗だ。
流石。立ってるだけで絵になるわね。
それにしても、ラインハルトって、こんなに甘い台詞を吐くような人だったっけ?
普段は理性的で穏やかで。ヒロインに意思表示するようになるのも好感度がマックスに到達してから。他の年下の攻略対象者とは違って、ぎりぎりまでヒロインへの思いを理性で抑える大人の男性。それがラインハルトだ。
拳を握る思いで待ちに待って、彼がようやく甘い言葉を吐いた瞬間、雄叫びを叫んだファンがそれはもうたくさんいたとか。
なんで悪女の私に向かってそんな甘い台詞を言ったのかしら。
表情を探りたくてもきらきらした微笑みが眩しくて、直視できない。
ラインハルトがカップをコトリと机に置く音がした。
「もうそろそろ時間だね。カレンさんはこのプリントを持って先に教室に戻っていてくれる? 僕は支度ができたら行くから」
「は、はい、わかりました」
いつものラインハルトにほっとして、プリントを受け取る。
「あ、そうそう」
部屋を出ようとして、扉を開けたところで呼びとめられる。振り返ると、案外近くにラインハルトの顔があった。
「ここでコーヒーを飲んだこと、カレンさんと僕だけのふたりだけの秘密だよ」
唇に人差し指を当てて、ふっと柔らかく笑う。
何の身構えもしていなかった私は、兇器にも等しいラインハルトの笑みを至近距離から食らって、思わず心臓が止まりそうになる。
『君と僕だけのふたりだけの秘密だよ』
頭の中で同じような台詞がリピートされた。
ラインハルトがヒロインに告白するときにあった台詞。
シチュエーションは全然違うのに、どうして突然そのシーンが頭の中に浮かび上がったのか、わからなかった。
ごく普通の会話の一部なのに。
「カレンさん?」
一時停止した私を、ラインハルトが小首をかしげて、見下ろしてくる。
その場面にちょっとトリップした気分になっていた私はラインハルトの声で慌てて現実に戻った。
「あ、は、はい。わかりました。コーヒーご馳走さまでした」
「またあとでね」
ラインハルトが軽く手を振ったので、ぺこりとお辞儀を返して部屋をでる。
教室に行く道すがら首を捻って考える。
エーリックからは告白されるし、ユーリウスからは好意を寄せられているような気がするしで、なんだかおかしくなったのかしら。
予想外のことが立て続けに起こったせいで、多分今、感覚が変なのよ。
だから、ラインハルトに言われた台詞とヒロインへの告白シーンが被ったのね。
それにしても、コーヒーを飲んだことを秘密にしてなんて、まるで、他の子にはしない、君は特別だって言われているみたい。
いやいやいや。私はすぐに否定する。悪女にそれはないわ。あれはただ単のプリントを持っていくお礼よ。
コーヒーのスチルが好感度高めで見れるから、変な錯覚をしてしまうんだわ。うん、そうそう。
それにしても、さっきはあぶなかった。心臓が持っていかれそうだったわ。ラインハルトはもっと自分の顔面破壊力に注意するべきよ。
そう思ったところで、階段にさしかかった。
降りようと一段目に足を踏み出したところで、「ピィー」と言う不思議な音がした。
音の出処を探った瞬間、スカートのポケットからだと悟る。
それが〈ユニコーンの角笛〉だと理解した瞬間、無意識に手が伸びた。
どんっ!!
背中を押されたのと階段の手摺を握ったのが同じタイミングだった。
私はよろめきながら、なんとか手摺にへばりつく。
突然のことに息が止まりそうになる。
あっぶな。
あと一歩遅かったら、階段の最上段から転がり落ちていた。
押した犯人の素性を確かめるべく、素早く後ろを振り返る。
そこには手を突き出した格好のセレナ・トスカラが立っていた。
大きく見開かれた目と目が合う。
私が咄嗟に手摺を掴むと思っていなかったのだろう。驚きが顔に出ている。
「あなた……」
私が呟くと、セレナははっとして踵を返し、その場から逃げ出した。
「ちょっと!!」
声をかけたけど、立ち止まらない。
私は突き落とされそうになった衝撃と、力の入りそうにない足腰のせいで、追いかけることができなかった。
セレナの姿はあっという間に廊下の先に消えてしまった。
私はしばらくの間、呆然と立ち竦む。
「勘弁してよ。セレナもなの?」
誰もいない踊り場で、私は呆然とつぶやいたのだった。
ユーリウスの前にラインハルトがきました(^_^;)
ラインハルトのイベント期待していた方いたらすみません。
ラインハルトには大きなイベントはありません。
教師と生徒が一緒に何かを解決したり、教師のプライベートに足を踏みいれたりするという構図はありえないし、無理があるので。
仮にラインハルトに問題があったり、トラウマがあったとしても、既に自分で解決してるか、折り合いをつけていると思います(大人なので)。
なので、フェリクスやエーリックのようなイベントはありません。でも、カレンやセレナが邪魔してくるので、平穏なルートでもないです。
ラインハルトが気持ちを表すのも、卒業日に告白してくるのと(もう生徒ではないので)、好感度がマックスに到達した卒業間際の一回きりです。
なので、卒業するまでは直接的な言葉でカレンに告白することはできないため、ラインハルトの回はこんな感じでおさめました。
でも、言葉で表せないかわりに、目線に想いをこめたり、遠回しに態度で現れたりするかもしれませんね。
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