表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/104

52、告白

数日後、学園の制服に身を包んだハーロルトが登校した。

一度は底辺に身を沈めた彼だったけど、もとはれっきとした貴族の出。エーリックと彼の父が、彼の身元を保証したことで、戸籍も取り戻した。その後貴族院の手続きで、ハーロルトは卒業したら、父親が持っていた伯爵位を継ぐことになった。それまではエーリックの父親がハーロルトの後見人となることも決まった。


「良かったわね」


外はうららかな日が照っている。

今は昼休み。私たちは校舎の入り口から少し外れた建物沿いの中庭に来ていた。落ち着いて話すのにはちょうどいい場所。 

途中入学してきたハーロルトは早速注目されて、きゃあきゃあ騒がれたり、好奇心剥き出しの顔でじろじろ見られたりしている。

まあ、そりゃそうよね。貴族の子女が必ず入学する学園に途中から入ってくるなんて、何か特殊な事情があると勘繰られて当然。

それと同じ流れで、二年から編入してくるヒロインも似たような状況だった。

みんなの注目を集めたことも、『カレン』の嫉妬を余計煽ることになった要因を作ったみたいだったけど。

人々の視線を避けて、落ち着いた場所を求めた結果、私たちは今に至るというわけだ。


「制服も良く似合ってる」


エーリックが言うと、ハーロルトがネクタイの襟元をぐいぐいと引っ張る。


「そうか? こんな堅苦しい格好、久々で、窮屈でしかたないんだが」


ちょっとすれた雰囲気のハーロルトだから、きちんとネクタイを結ぶと、確かに違和感がある。

ちょっとだけ崩していたほうが彼には合っているかも。

ネクタイひとつとっても、キャラクターごとに、その着方は様々。

イリアスは彼の性格同様に、きちんと綺麗にネクタイを結んでいる。フェリクスの場合は結び目がほどけそうなくらい、首から垂れ下がっていて、中のシャツも第二釦まではだけていて、堅苦しさとは真逆な格好。ユーリウスに至ってはネクタイさえしてなくて、ちらりと見える首元に赤い石のネックレスをしている。フェリクスと同じ自由な感じだけど、みんながつけるネクタイをしていないところが、型にははまらない別枠って感じ。

目の前にいるエーリックは第一釦だけ開けて、緩く結んでいる。みんなから好かれる、程よい隙があって、中間の着方は誰でも受け入れる心の広さを表しているみたい。

今はちょっとだけ見える喉仏が男らしい。


「そのうち慣れるわよ。生活ががらりと変わるけど、ハーロルトなら学園生活にもすぐ慣れそう」


私とハーロルトは既に呼び捨て合う仲。さっき様をつけて呼んだら、「やめろ、こそばゆい」と顔を顰められてしまった。ハーロルトのほうでは、そもそも様をつける気なんてないのか、最初から私を呼び捨てだ。


「そうそう。さっき呼びにいったら、もう女子に囲われてたしね。学園に慣れるのに、数日もかからないね、きっと」


エーリックがからかうように笑う。残念ながら、ハーロルトとエーリックはクラスが別れてしまったため、エーリックがさっき呼びに行ってくれたのだ。


「ああ? そういうお前はどうなんだよ。お前が来た途端、女たちがきゃーきゃー騒いでたのを見ただろ」


ハーロルトが私に目配せする。


「カレンにも聞かせなかったな。浮気者を彼氏に持つと辛いぞ」


「なっ!?」


エーリックの頬が瞬時に真っ赤になる。


「カレンと俺はそういう仲じゃないって!!」


それから今度はこっちを振り向く。


「それに俺は浮気なんて絶対しないし!」


あの、こっちを見て強調するのやめてくれない? 地味に傷つくんだけど。そりゃあ、悪女と恋人同士と思われるのは心外かもしれないけど。


「そうなのか? 俺はてっきり――。ああ、そういえば、お前にはガブリなんとかっていう幼馴染がいたな。そっちが本命か?」


「ガブリエラとはただの友達だよ」


「へえ、そお?」


エーリックの顔はさっきのやり取りを引きずって、まだほんのりと赤い。ハーロルトがそんなエーリックを探るように見て、何かを悟ったのか、目の奥がちかりと光った。


「なんだよ」


「じゃあ、お前の片想いってわけか。まあ、頑張れよ。陰ながら応援してやるから」


「そんな簡単に言うなよ。勝ち目があったら、俺だって頑張るさ」


「ないのか?」


エーリックがはあと溜め息を吐いた。


「俺が張り合える相手じゃない」


「なんだ、情けないな。それでも男か」


「うるさいな」


エーリックが軽く睨んだところで、ハーロルトがばんっとエーリックの背中を叩いた。


「いてっ!――なにすんだよっ」


「今度は俺がお前の背中を押してやったんだ。気合をこめてな」


ハーロルトがエーリックのほうにだけ、体を向き直らせて、ずいっと顔を近づかせる。


「騎士は敵前逃亡を許されない。負けるとわかってても、己の誇りをかけて、戦うものだ。違うか?」


「そうだけど……」


「なら、これくらいのことで逃げてたら、騎士なんて、夢のまた夢だぞ」


「言うね」


「情けないお前にエールを送ってるんだ」


ハーロルトの顔をじっと眺めていたエーリックがふっと笑う。


「確かに。戦う前から逃げてたら、騎士の風上にも置けないよな」 

 

ハーロルトもにやりと笑う。


「そのいきだ」


ふたりがふっと離れて、エーリックがこっちに向き直る。

一体、さっきから何の話をしているのかしら。

ふたりとも騎士になるから、そのための心構えを改めて心に刻んでたとか?

でも、なんで急にここで?

私が首をひねっていると、エーリックが私の目の前に進み出た。

いつもより、真剣な表情。と思ったら、突然、私の前に跪いた。


「え!?」


私は目を丸くする。慌てふためく私にかまわず、エーリックは私の左手を手に取る。


「――カレン」


「な、なに――?」


どうしていきなり跪いたのかしら。それに見たこともない表情で私を見上げているのは何故!?

エーリックが結んだ唇をすっと開いた。


「君は優しくて、勇気があって、素晴らしい心の持ち主。そして、ひとのために無心で行動できるひと。そんな君だから惹かれたんだ」


エーリックが瞼をとじ、額に私の手を当てる。


「君に俺の剣を捧げるよ」


私が言葉も出せず呆然と立ち竦んでいると、左手を持ったまま立ち上がる。

真剣な表情は少し和らいで、いつもの明るい眼差しの彼に戻りつつあった。

オレンジ色の髪が太陽にあたって、すごく眩しい。


「髪飾りを君にあげたけど、今度は――」


手にとった左手を少しだけ持ち上げて、身を屈める。


「ここにプレゼントさせて」


睫毛を伏せたエーリックの唇が近づいてくるのを、まるでスローモーションのようにゆっくりと感じた。

陽の光を浴びて、一本一本光り輝く、エーリックのオレンジ色の髪。

伏せたまつげは濡れて輝き、鼻先は完璧な線を描いている。男らしい顎の線。

それから――形の良い柔らかそうな、桃色の唇。

その唇が私の左手の薬指に触れた。

その瞬間、私の体は魔法にかかったみたいに固まった。

振り払うことはもちろん、息をするのさえ難しい。 

永遠とも思える、唇の柔らかい感触が離れると、エーリックが腰を低くしたまま顔をあげて、私の顔を覗き込む。

茶色い水晶玉のような瞳がきらきらと明るく輝いている。


「ごめん。驚かせちゃった? でも、もう遠慮するのはやめたから」


いたずらっぽくくすりと笑った瞬間、私の脳みそは「ボンッ!!」と音を立てて破裂した。


「これから覚悟して」


笑みを刻んだまま、エーリックが私の左手を優しく離す。

そこで、ハーロルトが「ひゅー」と口笛を吹く。

エーリックはハーロルトのもとに戻ると、ふりかえった。


「ハーロに今から校舎の中を案内することになってるんだ。それじゃ、カレン、またあとでね」


私の心臓を一時停止させたことなど、まるでなかったように振る舞うエーリック。


「じゃあな」


ハーロルトも手を目の横でぴっと振って、くるりと後ろを向いて去っていく。

ふたりが見えなくなったところで、私の口はようやく機能を取り戻した。


「な、な、な、――何が起こったのっ!?」


キスされた左手をかかげで、そのままフリーズする。

キスした! キスした! キスしたわ! 私の指に! しかも左手薬指!

それって、それって、どういう意味!? そういう意味!?

でも、どうして!?

私、悪女よね!? みんなから嫌われている悪女のはずなのに!

冗談でエーリックがこんなことするはずない。

それだけは私にもわかる。

だって攻略対象者にとって、愛を囁く相手はただひとり。軽々しく口にするはずがない。

頭は混乱したまま、今までのエーリックとのやり取りが走馬灯のように駆けめぐる。

もしかして、あれも、これも、それも! ずっとそういう意味だったの!?

信じられない。私は呆然としたまま、穴が空きそうなくらい左手を見つめる。


『君のためにこの剣を捧げるよ』


エーリックがヒロインに、告白する時の台詞。


『君に俺の剣を捧げるよ』


似たような台詞を聞いて、さっきは驚いて固まってしまった。

ヒロインにでも、ガブリエラにでもなく、――私に。

ヒロインへの気持ちを告白するときと同じような台詞なら、エーリックは本心を言ったと思って間違いない。

じゃあ本当に――。

視線が薬指へと集中する。

さっきの出来事が映像となって、自分の頭の中でリプレイされる。

ついでに感触も――。

ボンッ!! 

再び私の頭は爆発した。

エーリックが私のことを好き!!

衝撃のあまり、私はふらついた。

そのとき――。


ガッシャン!!!


背後で何かが割れる音がした。




とうとう主人公、自覚しました(☉。☉)!


ひとまずエーリックの回はこれで終了です。次はユーリウスです(^^)/


この作品が面白いと思ってもらえたら、ブックマーク登録や☆マーク、いいねボタン押して頂けたら、励みになります! よろしくおねがいします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ