31、好きなタイプ②
移動教室に向かって、三階の踊り場を歩いている時だった。
「ユーリウス様!」
女子生徒の甲高い声が聞こえた。
窓に近付いて下を覗いてみると、ユーリウスとそれを取り囲む女子生徒たちが見えた。
ほんの一時間前にも似たような光景を見たなと思っていると、女子生徒のひとりが口を開く。
「ユーリウス様は婚約者がいらっしゃらないとお聞きしました。本当でしょうか」
女子生徒は頬に朱を立ち上らせながら胸の前で手を組んでいる。その懇願するような仕草は愛らしいと同時に真剣味が感じられる。
対してユーリウスは壁によっかかり首の後ろに手をまわして脱力した感じ。
「本当だけど」
女子生徒たちがざわめいた。顔を見合わせて、瞳を輝かせて頷きあう。
へー。ユーリウス、婚約者いないんだ。
ゲームでも、隠れキャラ以外で唯一ライバル令嬢がいないのがユーリウスだった。
多分理由は自身の生いたちと、祖父との関係が起因していると思う。
嫌いな祖父が薦める婚約話なんて、普通なら受けたくないものね。
今は祖父との関係も良好のはずだから、いてもおかしくないと思ってたけど、そこらへんはやっぱりゲームの初期設定と同じなんだ。
「それを聞けて安心致しましたわ。その、教えて頂けると嬉しいのですが……」
女子生徒が、躊躇いながらも上目遣いで伺う。
「ユーリウス様はどのような女性が婚約者になるに相応しいとお考えですか」
ユーリウスがちょっと考えを巡らすように間を作ってから手をおろし、顔をあげる。
「それ聞いてどうすんの?」
ユーリウスは特に興味もなさそうな顔つきである。
「それは! 是非参考にさせて頂けたらなと思いまして」
ひとりが勢いよく前のめりになると、周りも同じようにしてうんうんと頷く。
「是非タイプの女性を教えて下さいませ!」
おお〜? これはイリアスに向けられたのと同じ質問ね。同じ日に同じ質問を聞くなんて、偶然もあるものね。
同じ人を好きになる者同士、なんか違いとかあるのかな。イリアスの言った答えと比べちゃお。
私は興味津々で身を乗り出す。
「タイプ? そうだな……」
ユーリウスが首を捻って目線を上にやる。理想の女性像を思い浮かべているみたい。
「まず、美人」
うお。イリアスとはまた違った意見。でも、美人じゃないヒロインは存在しないもんね。
「それと、見ず知らずの人間でもためらいなく助けてくれる人」
これもヒロインが生まれながらにもつ優しさね。
「それから、動物が好き」
はい、イリアスとかぶったー! あっちは「優しい」だったけど、似たようなものよね。
それからそれから?
「あと真面目で単純――」
イリアスの言った「ドジ」で「一生懸命」とかぶるかしら。
「で、貴族らしくない子」
うん。ヒロインは元庶民だもんね。
ユーリウスが言い終えたのか、上にあげていた視線を女子生徒に戻す。
「そんくらいかな」
聞いていた女子生徒たちが一同、なんとも言えない顔をする。
「『貴族らしくない子』、ですか?」
この国で一、ニを争う家柄のユーリウスである。まさかその人物から『貴族らしくない子』なんて答えが返ってくるとは思ってもいなかったに違いない。
「答えたからもういいだろ。じゃ」
戸惑う彼女たちを置いて、ユーリウスが歩き去る。
あとに残された子たちは円陣を作って、ひそひそと話し合う。
「貴族らしくない子ってどんな子かしら?」
「全然わからないわ」
彼女たちは生まれたときから『生粋の貴族』。周りには貴族の友達しかいないから、『貴族らしくない子』がどんな子か想像できないに違いない。
「貴族じゃないなら、メイドってこと? メイドを参考にすればいいのかしら?」
「メイドとは限らないわよ。庶民かもしれない」
「ええ?! 庶民?! ありえない。庶民なんて、地位もお金もないじゃない」
「馬鹿ね。『貴族らしくない子』と言っただけで、本当の庶民とは言ってないでしょ」
「そっかー」
「それがわかったって、何のヒントにもならないわよ」
彼女たちの問答はしばらく終わりそうにない。首を捻ってうんうんと呻っている。
乙女たちをこんなに悩ますなんて、本当攻略対象者って罪深いわね。
私は肩をすくめて、教室に戻ったのだった。




