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9、家族の温もり

イリアスを送り届けたあと、私は家に着いたその足で早速お父様に懇願しに行った。

ぜひ、犬を飼わせてくださいと。

お父様は渋ることなく、二つ返事で了解してくれた。実は我がままなカレンが顔を合わせて、父親に懇願するのは過去合わせて、たった二度だけ。外見に似合わず、臆病で人付き合いが苦手なカレン。本当は甘えたいのに、面と向かって、自分の心を吐き出せなかったカレン。そんなカレンの滅多にないお願いに、お父様が頷かないわけがない。

こじれにこじれて、ゲームでは心臓に毛が生えてそうなほど、図々しく意地悪なカレンだったけど、幼い頃はまだ普通の心を持った少女だったのだ。

ちなみに一度目のお願いは言わずもがなのイリアスとの婚約である。

私は心から嬉しくて、お父様に抱きついた。


「ありがとうございます。お父様、とっても嬉しい」


元いた世界では父親がいなかったから、こちらでは思い切り甘えられて嬉しい。


「喜んでもらえて嬉しいよ。私の愛しくカレン」


「ふふ、お父様、だーい好き」


「……ここにはわたしもいるんだが」


「お兄様も大好きですよ」


ふくれっ面のジェイクにむけて振り返って告げると、瞬時にその顔が赤くなった。

そんな様子を見て、執事のインギスが微笑ましく目を細める。一ヶ月前には考えられなかった光景だ。

憑き物が落ちたかのような私の変わりように、使用人たちは初め訝しがっていたけど、そのきっかけが家族の和解と勘違いしたのか、今では生温い目で見守られている。

今までのお嬢様は、お寂しいあまり、周りに八つ当たりしていたのだと。

まあ、実際カレンの癇癪の理由としては半分正解だと思うけど。あとの半分は貴族の令嬢として甘やかされたのもあると思う。

大人顔負けにけばけばしく化粧したのも、歳に似合わずませた格好をしたのも、一ヶ月かけてゆっくりカレン・ドロノアの過去を振り返ってみれば、その理由も解けた。

この屋敷には幼い子どもがカレン以外にいない。最も年が近いアンナでさえ、六つ上の十八歳。十二歳からしてみれば充分大人だ。

甘えたい家族の側にいるのは、六十過ぎのインギスや一緒に仕事をする大人たち。事務的な用であってもお父様とお兄様が話しかけるのは、自分より年上な使用人たち。いつも置いてけぼりにされるのは子供の『カレン』。

だからカレンは早く大人になりたかったんじゃないかな。例え見せかけでも、大人の女性みたいに化粧して、成人女性しか行けない舞踏会で着るようなドレスを着て。必死に大人の仲間入りをしようとしてたんじゃないかな。

時が経つにつれ、報われなくてひん曲がってしまったけど。

毎週のようにドレスや宝石を買えるお金がどこから出ているのか、少し考えれば、答えは自ずと見えてくるはずなのに。

嫌いな娘なんかのために、湯水のようにお金なんか使わせないよ。

あなたは愛されていたんだよ、カレン。

私はお父様の腕に抱かれながら、そっと心の中で呟く。

暖かい温もりを感じながら、私は振り仰ぐ。

優しい目線が私に降り注ぐ。


「お父様、だーい好き」


この言葉を何度でも言うから、あなたもきっと言ってね。


『お母さん、だーい好き』って。



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