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僕らの裏魔界都市  作者: 桜鼠
第1章 シロツメクサの花冠
5/5

1.満身創痍  1

今日から学校。新しい制服に身を包み、リビングに向かった。

味噌汁の匂いや、炊きたてご飯の匂いが食欲をそそる。


先に食べてた父さんと、まだキッチンに立ってる母さんにおはようを言い、洗面で顔を洗ってからダイニングに戻った。


「いただきます!」


黙々と食べていると、テレビからから行方不明者のニュースが流れてきた。


「『星野グループの創設者の一人娘である、星野還奈さんが行方不明になってから、半年が経ちました』」


そういえば、そんなニュースあったな。美湖都も含め、この街行方不明多くないか?


「『また、6年前の南雲美湖都さん、4年前の三森琉斗さんも行方不明のままとなっており……』」


「ゴフッ!」


飲んでた味噌汁吹き出した。うわ、卵焼きにかかった……。自分でやっておいてって感じだけど、汚い……。


「律!? どうした!?」


「いや、あの………………」


言えない、4年間も行方不明中の人と会っちゃったとか……言えない。


「なんでもない…………器官に入ってびっくりした…………」


何か理由があったのか……? いや、そもそも真夏の暑さが見せた幻覚…………はないか。

アイスの棒は、ちゃんとそこにあったんだから。ならどうして、家族の元に戻らないんだ?


とりあえず、制服に味噌汁がかからなかっただけマシか。転校早々、『アイツ、味噌汁の匂いするぞ』って噂されるのだけは御免だ。


アクシデントを起こしつつも、準備には何の支障も出さずに、快く家を出た…………はずだった。


「律? やっぱり今日どこか変じゃないか? 顔真っ青だぞ!?」


「や、変ではないんだけど…………何て言うんだろう、未知の領域」


「未知の領域!?」


外に出たら幽霊が見える事は多々ある。いや、幽霊と言うよりモヤのようなモノ。いつもは視界が曇ってるなって思うだけで済むんだけど、今日は…………。


「まだ…………生き………………た」


声まで聞こえる!! しかもうちの家の壁を通り抜けようとして、失敗して激突してるし!


「何もないよ! うん!! 何もない! 遅刻しちゃうよ、行こう!」


確かに言ったよ? 真顔でスルーできるスキル欲しいって。実戦で鍛えろってか? 無茶振りにも程があるわ。


見える力がどのくらい維持されるのかわからない以上、見えないフリがどうしても必要になってくる。


今日は休んだ方が…………なんて言う父さんを、なんとか宥めて駅で別れた。


見えないフリしとけば平気平気。なんて思ってたちょっと前の自分を殴ってやりたい。ゲームのコントローラーとかで、思いっきり。


ぎゅうぎゅうの満員電車、僕はドア付近に立っているけれど、窓の外にいるヤツと目が合っている。いや、目は合っているが、ボーッとしているフリをしている。

血塗れでこっち向かないで欲しい、切実に。

やめろ、『見えてる?』って聞いてくるな怖いから。


というか、どうしてこんなにはっきりと見えるように? もしかして昨日の合わせ鏡のせい? それだとしたら琉斗のせいだよね? 次会ったら、アイスの恨みも込めて殴る。


当たったからって許されると思うなよ、僕はあの瞬間に食べたかったんだ。食べ物の恨みは恐ろしいんだ、思い知れ!!


なんて考えてたら、いつのまにか幽霊はいなくなった。カーブで振り落とされでもしたのか。

学校の最寄り駅で降りようとして、下を見た瞬間、ヤツはいた。

ホームと電車に挟まれて、変な声あげてたから、僕が変な声あげそうになった。お前ら透けてるから問題ないんじゃないの? 踏み潰すぞ。


学校について、職員室に向かって、必要な手続きをして、クラスに向かう。


求めていたわけではないけど、校舎で迷ってたら助けてくれる、優しい人なんていないんだよ。みんな、自分が遅刻しない事で精一杯なようで、僕をチラチラと見てはダッシュで階段を上っていった。


「こんな時期に転校なんて、南雲君も大変ね。クラスのみんな優しい子ばかりだから、すぐ馴染めると思うわよ」


担任の先生の名前は白鷺千歳しらさぎちとせと言うらしい。担当教科はまだ知らない。


「ははっ、親の事情ですし、仕方ないですよ。友達ができると嬉しいな」


先生の首に抱きつくようにしている霊については、見なかった事にしておこう。


先生に呼ばれるまで廊下待機、は必ずしもそう、だとは限らないのだと思い知らされた。先生と一緒に入っていったし、なんなら黒板に名前も書いてもらってない。


転校に抱いていた憧れを、全てぶち壊された。くそっ、夢を返せ!


「自己紹介お願いね」


さっきら様々な視線が向けられている。それと、ヒソヒソなんて通り越して、ザワザワと騒がれている。当然か、普通転校生が来たらワクワクすんもんな。


「南雲律です、これからよろしくお願いします」


緊張を隠すために、笑みを浮かべて出来うる限りの自己紹介をした。やけにあっさりしているのは気にしないでいただきたい。


あと誰だ!? モブ顔だね、なんて言ったの! 聞こえてるからな!? 結構気にしてんだよチクショウ!


「質問その他諸々は、あとでやってね~。それと、南雲君の席は、廊下側の一番後ろ。吉川さんの隣よ」


窓際じゃないんだ、またも憧れを壊された。まあ教室のど真ん中じゃないだけマシか。


「はいじゃあ授業始めるわよ~」


そう、ここでも僕は憧れをまた一つ壊された。転校初日の最初の授業が担任の授業。ここまではいい。だがしかし、質問コーナーなどは一切設けられなかったのである!


もちろん生徒からのブーイングは殺到。先生は気にせず教科書を開けと言う。逆らえるはずもなく、僕は教壇から降りた(ちなみに言うと、教科書ないから隣の人に見せてもらおう、なんて考えは最初からない。家に教科書が届いた時点で諦めた)。

何なら、転校ばかりの僕が憧れを抱いているのは、今までこんなんばっかりだったから。漫画とかでよく見る展開はないのかと、この年まで夢見続けたからである。


席に座ろうと通路を通ると、両サイドの人達から、よろしく、と言ってもらえた。それは嬉しかったけど、隣の吉川って人だけは何も言ってくれなかった。というか、目が合ったと思ったら、速攻逸らされた。律君泣いちゃう。


吉川は、黒っぽい焦げ茶色の長いストレートの髪に、橙色の瞳。ツリ目気味の、文句なしの美人。ただ、近寄り難い雰囲気を醸し出している。


「…………キュ?」


席に座った途端、吉川の方から何かが聞こえてきた。多分、動物の鳴き声。周りの人は特に気にしていないようだ。空耳か?

教科書を開きつつ、隣を見ると


「キュッ!!」


ハムスターと目が合った。おおう、ふわふわしてる。全身真っ白で、所々にグレーの毛が混ざった斑模様のハムスター。


吉川の肩に乗っかっているソイツは、きっと使い魔か何かだろう。という事は、吉川は見える系の人間で、かなりいい家の出だって事。


「チッ……」


僕が見ている事に気付いたようで、舌打ちしながら睨んできた挙句、ハムスターを机の上に移動させてしまった。僕何かしましたっけ……?


白鷺先生の担当は数学。僕が一番得意な教科だ。その上、前の学校でかなり先まで進んでたから、割と退屈。指示された問題よりもさらに先まで解いて、ぼーっとしていた時だった。


「キュッキュ!」


吉川の所にいるハムスターが、急に元気よく机の上を走り始めた。吉川はと言うと、頬杖をつきながらウトウトしている。


ハムスターはしばらく走り回ってから、バッと勢いよく飛んだ。僕の机に飛び移ろうとしているらしい。


「キュッ!?」


飛んだはいいけど、ハムスターが思っていたよりも距離があった。真ん中辺りで失速し、落ちそうになった。僕は急いで手を伸ばして落下を防いだ。


「大丈夫か?」


助けられた事を知って、僕にめちゃくちゃ頭を下げてる。こんなに賢いハムスター、いる?

一瞬で愛着が湧いて、机の上に乗せて指で撫でくりまわした。嫌がらずに気持ち良さそうにしている。ふわっふわだ、癒し……。


この子は人間の言葉がわかるんだな。うわ~、可愛い~! 家じゃ動物なんて飼ってなかったから、余計可愛く見えちゃう。


そうだ、今日おやつにナッツ持ってきてたんだっけ。

先生にバレないように、カバンからナッツが入った袋を取り出した。あげすぎはよくないって聞くけど、ちょっとならいいか(そもそも、使い魔のハムスターにその常識が通用するのかはわからない)。


数粒取り出して、ノートの上に転がしてやると、小さな手で持って食べ始めた。うわ可愛い。あ、ちゃんと塩とかついてないタイプだから安心して欲しい。


カリカリと、あっという間になくなってしまったナッツたち。ハムスターは、もっともっとと、強請るように両手を伸ばしている。あげちゃってもいいのかな? 飼い主である吉川を見ても、彼女は見事に爆睡していた。


先生に怒られないのかなと思ったけど、問題の解説してたから多分バレてない。

視線をハムスターに向けると、鼻をふんふんと鳴らし、目をキラッキラさせながら僕を見ていた。


「………………少しだけだぞ」


負けた。もう一度袋を取り出して、数粒あげた。ついでに僕も、ナッツ一粒を口に入れた。授業中なのにって思う? 大丈夫、斜め前の人ラムネ食べてるから。


「チュッチュッ!」


お腹いっぱいになって満足したようだ。僕の机の上を元気よく走り始めた。しかも、僕が問題を解く時は、邪魔にならないように走るんだ。


先生の話を聞きつつ問題を解いていると、左手にハムスターが乗った。手ェちっちゃ~い、可愛い~。


と、思っていたら、器用に僕の腕を駆け上がり、肩に乗った。それだけじゃなく、そこで丸まって寝始めた。こっ、これは…………身動きが取れないやつだッ!


どうしよう、と思ったその時。ハムスターからグレープフルーツのような香りがした。最初は生の果物かと思ったんだけど、もっと人工的な香りで。


吉川の付けてる香水なのかなって、ちょっとドキドキしたりした。本人には絶対言えないけど。完全にセクハラになるからね。


それにしても、お互い見える人同士なら仲良くなれる気がする。授業が終わったら話しかけてみようかな。


睨まれる可能性大いにアリだけど、ちょっとずつ仲良くなれたらいいなぁ。

とりあえず、僕は右腕と頭以外動かさないでおこう。


チャイムが鳴ってから、ハムスターは吉川の元に戻っていった(左腕が痺れて感覚が無くなっていたのは言うまでもない)。彼女に話しかけようとした瞬間、僕は取り囲まれた。


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