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僕らの裏魔界都市  作者: 桜鼠
第1章 シロツメクサの花冠
3/5

1.午前一時  2

「朝ごはん食べてないし暑いし…………最悪だ」


じっとりと纏わりつくような熱気の中、歩く事数分。額から流れた汗が、顎を伝って地面に落ちた。

日陰を歩けばいくらかマシになったけど……。


そういえばあのホウキ、久々に見たな。室内用で、柄にダイヤモンドの装飾が施された、魔除けのホウキ。


ダイヤはパワーストーンの中でも、魔除けの力が一番強いらしく、あれで【お掃除】したら一切幽霊の類は出なくなる。


南雲家に代々伝わる魔具の一種らしい。母さんはそれを知らずに、子供の頃おもちゃにして遊んでたらしいけど……。


婿養子としてやってきた父さんが、貴重な魔具をおもちゃとして遊んでる南雲家を見て、意識飛びかけたとか言ってたっけ。


それにしても


「暑い…………」


フラフラと彷徨いながら辿り着いたのは、あの日美湖都が消えた公園だった。

無意識のうちにここに来ちゃったのか……。


「いないって、わかってるのにな……」


ついキョロキョロと、あの子の姿を探してしまう。急に目の前に現れてくれないかな、どんな姿であろうと、受け止めるから。


公園を一周したら帰ろう、そう思った時だった。前から歩いてきていた男の人が、フラフラしながら膝から崩れ落ちた。


「えっ! 熱中症か!?」


放っておいたら大変だと思って、近寄ってみた。この炎天下、ずっと歩いていたのだろうか? 見たところバッグ等の持ち物は見当たらない(それは僕もたげど)。


僕より色素の薄い茶色の髪で、ものすごく癖っ毛。ふわふわとあちこちが跳ねている。右で前髪を分けていて、目を閉じててもイケメンだなって思わされる。


それに、今時たっつけ袴なんて着る人いるんだな……。まあいいとこのお坊っちゃま、なら着るかもしれな…………いや、いいとこの、なら絶対スーツ着る(偏見)。


とにかく、肩を叩いてみても呼びかけても返事がない。どうしようかと思った矢先、視界にコンビニが映った。


「どうしよう、お金は持ってな…………あ!」


ズボンのポケットからキーケースを出した。僕は万が一の時の為に、キーケースに千円札をいつも入れている。

それが役に立つ日が来るなんて!


男の人を近くのベンチに寝かせて、ダッシュでコンビニに向かった。

スポーツドリンク3本と、僕が食べたくてソーダ味のアイスを一本買った。


買って、またダッシュで戻ったけど、まだ男の人はベンチで眠っていた。眠っていたって言うより、気絶している、が正しいのだけど。


「とりあえず脇の下をペットボトルで冷やして…………っと」


この人袴でよかったかもしれない。身体を早く冷やせるし。

持ってたハンカチでパタパタ扇いでやりながら、アイスの袋を開けた。


空きっ腹にアイスはどうかと思うけど、食べたかったんだ、仕方ない。

せっかくだから大口で齧ろう、そう思って口元へ運んだアイスは。


「アイスだ~!!」


食べられた。とても大事な事だから、二回言っておく。食べられた。しかも、半分以上。

そして残りも持っていかれた。


「っ、はああああああ!?」


「お、君が助けてくれたの? いや~、助かったよ、ありがとう。」


残りのアイスを美味しそうに咀嚼しながらお礼を言う目の前の男を、僕は一体どうしたらいいんだ。助けた恩を仇で返された。


「あ、アイス当たってるよ~。よかったねえ」


よし、そこを動かないでください。あと歯ァ、食いしばりやがれください。


「ちょっ、しまって! グーしまって! アイス食べたのは本当にごめん!」


仕方ないから許してあげた(アイスが当たりじゃなかったら絶対に許さないけど)。


「いや~、君みたいな子に助けてもらえて嬉しいな~。君は優しい、いい子だね」


そう言って、スポーツドリンクを一本、一気に飲み干した。頭キンキンする……って言われても、アイスあんなに勢いよく食べて、今そんなに飲み物飲んだらそうなるよね。


当たりが書かれたアイスの棒を手渡しながら、ご馳走様でした~、と言ってきた。本当にだ。


「僕は三森(みもり)琉斗(りゅうと)、よろしくね、ちなみに18歳」


予想はしてたけど、歳上か。着物のせいか、余計大人びて見える。行動は小学生男子のソレだけど。


「南雲律、です。16歳」


「あはは、今更敬語はいらないよ。堅苦しいから嫌いなんだよね~。だから名前も琉斗って呼び捨てでいいよ」


「ふうん、じゃあ遠慮なく。こんな炎天下の中、熱中症になるまで何をしてたんだ?」


そう尋ねると、今までにこにこ(ヘラヘラとも言う)していた琉斗は、急に哀しげな瞳で僕を見つめた。


「僕が…………幼馴染のあの子が、どちらも失くしてしまったものだよ」


さあ、と生暖かい風が僕らの間を吹き抜けていった。こんなに真剣な表情をする人だったのか。


「あちち…………やっぱり今日は暑いね~」


けれどそんな表情は一瞬で消えてしまった。着物の袂からゴムを出し、髪を結んでいく。

前髪が左目を完全に覆っている。邪魔じゃないのかな。


今更だけど、この人エメラルドみたいな綺麗な緑色の瞳だ。

俳優顔負けレベルのイケメンだ…………。


「ああそうだ、助けてもらっておいてなんだけど、もう行かなくちゃ。律、お礼はまた今度改めてするね。だから今、代わりにいい事教えてあげる」


残りのペットボトルをちゃっかり手にした琉斗は、ベンチから立ち上がって僕の前に立ち、妖しく笑った。


「午前1時、合わせ鏡をしてごらん。50枚目に映った君が、君の願いを叶えてくれる」


「え…………」


それってどういう事? そう聞こうと思った瞬間、強い風が吹いた。思わず目を閉じてしまうほどの強い風が。


「君が、僕の代わりに彼女を見つけてあげて。きっと会うのはその後だ」


目を開けた頃には琉斗の姿は何処にもなかった。その代わり、またね~、と呑気な声が聞こえてきた。

辺りを見渡してみても誰もいない。夏の暑さが見せた白昼夢か何かなのだろうか。


けれど、あたりが書かれたアイスの棒は、当たり前のように僕の手元にあったんだ。


帰り際にもう一度コンビニに寄って、アイスを交換してもらった。


一口齧ると、しゃくりと爽やかな音がした。

それは口の中ですうっと溶けて消えてった。


帰ったら、合わせ鏡をしてみよう。それが嘘でも、縋りたいんだ。

美湖都に会える。その願いが叶うなら、僕は悪魔にだって魂を売ってやる。


「そういえば……」


琉斗が言ってたあの子って誰の事だったんだろう。幼馴染で女子で。きっと女子高生とかなんだろうけど…………はっきり言うと、怖いものランキング1位にいたりする。


ちなみに2位が悪霊とかそういうの。3位はキレた母さん。

あんまり関わりたくないぞ、うん。


あ、アイスまた当たった。




────────────────────




家に帰ると、ちょうど母さんがお昼ご飯を作ってくれてた。家中の【お掃除】は終わったらしい。いい汗かいたー、って言ってた。


そして届いた新しい高校の制服。さあ、明後日には学校が始まる。


けれど、その前に今夜の合わせ鏡だ。

午前1時が待ち遠しくて、ずっとソワソワしていた。何回か母さんたちにバレそうになってヒヤヒヤした。


僕らみたいな見える人は、こっくりさんとかの儀式に参加してはいけない。何故なら、大抵の場合がおふざけで終わらないからだ。


最悪の場合、変なモノを呼び寄せてしまい、大惨事と化す。


子どもの頃から嫌と言うほど言い聞かされてきた。まさか、その禁を犯すことになろうとはね。


そして、待ちに待った午前1時。お風呂も入ったし、父さんも母さんも寝ている。


母さんが【お掃除】したばかりだし、念の為の簡易結界も張った。これで何が来ても大丈夫だとは思う。


さあ覚悟を決めろ、南雲律!!


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