表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/133

第1話 お月様

 暗い暗い海に浮かびながら、ボクは波に身を任せ揺蕩っていた。


 チャプチャプと小さな小波が体に当たりくすぐったい。


 ゆらゆらと体が揺さぶられる感覚がとても心地よく、いつまでもこうしていたいと思うほどだ。


 体を動かしてみようとしたがうまく力が入らない。だけど、不思議と恐怖は感じなかった。

 

 体の力を抜いたまま、波任せに揺られながらも体は水中に沈んではいかない。


 確か、どこかの国に体が浮く海があったと思う。塩分濃度が高いと浮力も大きくなり体が沈まないとか……。


 まあいいや。もうちょっとこのまま浮いてようっと。


 理屈や小難しい事に目を瞑り、ボクはそのままこの摩訶不思議な現象を楽しむ事にした。



 しばらく自由気ままにぷかりぷかりしていると、遠くの方で小さな光が見てとれた。「星か何かかな?」と眺めていると、その光は次第に大きな光となっていく。


 やがて月くらいの大きさになると、ボクの頭上にゆっくりと近づいてきた。


 な、何? 何なのよこのお月様……!


 だけどやっぱり怖くはなかった。


 いや、むしろホッとさえする。


 お月様は暗闇で、黒い海に浮かぶ孤独なボクを、優しい光で照らしてくれる。


 じんわりと体全体が暖かくなり、少しずつ眠気も誘い出す。体の芯からほっこりするこんな優しい月光浴(?)は初めてだ。


 ボクはゆっくりと目を閉じた。


 もう何も考えないでずーとこのままこうしていようと心に決めたその瞬間。

 急に鼻の中に水が入り込み、激しくむせた。


 ……ボフォ! ブヘェ! ちょっと急に何なのよぉ!


 ゴホガハと咳き込んだ後、鼻からブフーと水を出し呼吸を整える。


 そしてボクは異変に気がついた。


 体がゆっくりと沈んでいるのだ。


 さっきまでの心地よい浮力が消え去って、変わりに手足に重りが括り付けられた様な、そんな感覚。バシャバシャと手足をかき回しても、体は海の底へと引き寄せられていく。


 ちょ、ちょっと待って! どう言う事? 誰か助けてよ!


 大声で誰かに助けを求めようとしたが、声が出なかった。変わりに開けた口には海の水が大量に入り込んでいく。


 ガバゴバァ……誰か……助けてぇぇぇ!


 トプンと体の全部が水面から消えゆっくりと海の底に沈みゆく中、それでもボクは水面越しにゆらゆらと映る空の光に向かって、必死に右手を伸ばし続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ