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1.悪逆令嬢オルテンシア

 ――判決。被告人オルテンシア・ガットネェロに王都永久追放を申し渡す。しかしながら、本人は昨晩、自室において誇り高き自死を選んだと聞いている。したがってその死をもって罪を償ったと判断し、先刻の判決は取り消すものとする。


 ――言ったはずだ。お前は公式にはすでに死んでおるのだ。我がガットネェロ侯爵家にオルテンシアという娘はもう存在しない。二度と我々の前に姿を現すな。


 ――死んだ程度で許されるなんて思わないことね。この私が生きている限り、貴女が日の目を見ることは許さない。決して。絶対に!


 こうして『悪逆令嬢オルテンシア』は(おおやけ)の場においてその短い人生を終え、裏では生家を追放されることとなった。


 溶かした純銀を極限まで細く流したような、繊細で強くウェーブのかかった髪。ある種の冷気を帯びた白い細面。

 見る者をはっとさせるほどの美人だが、同時にその灰色の瞳はぞっとするほど温度というものを感じない。


 酷薄。


 それが彼女を見る者が抱く第一印象であり、残念なことにその印象は彼女の内面の評価としておおむね正しい。


 おおむね、と述べると彼女には冷たい外見とは裏腹な温かみのある一面があるのかと期待されるかも知れない。だが、事実はむしろ逆で、より厄介だ。


 彼女は温情を()()()ことができるのだ。


 まるで自分自身を人形とした傀儡師(くぐつし)のように、舞台の上で相手の望む彼女を演じることができるのだ。


 そんな彼女の心には血も涙も通っていない。通わせようとも思わない。だが一方で彼女は飢えてるかのように血と涙を見るのが好きだった。


 身体から出るものも、心から出るものも。


 だから、他人に血と涙を流させた。


 彼女は自分が罪を犯したなどとは思っていない。

 ただ、好きなものを好きなだけ見たかっただけだ。


 自分に落ち度があるとしたら、運命を見極めきれなかったことだろう。まさか、自分が夢中で血と涙を搾り取っていた相手(おもちゃ)が密かに王子の恋心を射貫き、王太子妃にまで上りつめるとは。


「まぁいいわ」


 彼女はは住み慣れた屋敷の裏口の前で、くるりと踵を返した。粗末な馬車にほとんど着の身着のままで乗り込む。


 馬車に揺られながら、オルテンシアは目を閉じた。


 返り咲く手段はいくらでもある。私が私である限り――

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