迷い散っていく魂
「…行きます!」
3人の中で最初に動き出したのは陽人だった。陽人は剣を構えたまま、全力で化け物の方へ駆け出す。
「ガッ……ガァァァ……!」
大木にめり込んでいた化け物が少しずつ動き始める。その姿を認めつつも、陽人の脚に迷いはなかった。
「少し、力を借ります…!」
化け物から一瞬たりとも目を逸らさず、小さい声で無名の勇者に告げる。
「何が、起こってるんだ…?」
陽人の後方で低く刀を構えていた志度が、目を見開いて驚く。
陽人が構えていた白銀の剣身は少しずつ発光し始めた。光は少しずつ強くなっていき、気付けば剣身が青白く光っていた。
「現世と来世を分かつ燐光。生者と亡者の交わりを断つ一閃。この剣に宿るは魂を在るべき場所へ還す役割。…その命に従い、我が手より引導を渡そう…!」
口から溢れていく言葉をそのまま唱えつつ、陽人は化け物の目の前まで接近していく。その言葉を唱え終わる頃には、陽人が構えていた剣からは眩いばかりの月光を放っていた。
陽人はそのまま化け物の目前で上に跳び、ヤツを見下に置きながら剣を振り上げる。
「燐閃・一輝!!!」
陽人はそのまま、光り輝く剣を化け物の脳天へ振り下ろした。
化け物の断末魔はなかった。その代わり辺りには、ドォォォォン…!と、大木が大きく揺れる音だけが響いた。
「これで、終わった…?」
「陽人くん!早く逃げて!!」
気を少し抜いた陽人に、志度が後ろから叫びを上げる。
その言葉を聞いて、陽人は咄嗟に横へ転がり逃げた。
「……“復讐”…!」
するとその直後、志度が割り込む様に刀を化け物に突き立る。
「ギァァァァァ…!」
それを受けて化け物は断末魔の様なものを上げ、何度か痙攣を起こした後、ピクリとも動かなくなった。
どうやら、陽人の攻撃では致命傷には至らなかったようだ。それに気付いた志度が最後のトドメを刺してくれたのか…?
大波のように疲れが押し寄せてきた陽人の頭では、そう考えるだけで精一杯だった。
そのまま、志度と共に小屋へと戻ったのだが、その間、何を話したのか…どんな道を通ったのか、全て混濁した意識の中に飲まれていった。




