不死身故の戦法
「くっそ、キリがねぇ…!」
視界の先にいる化け物を睨みながら、霞が吐き捨てる。
ヤツは特段速いわけでもないし、特段耐久に優れているわけでもない。
注意すれば普通に回避できるし、普通に怯む。なのに……!
「フゥゥゥゥ………!」
攻め込んでいた志度がヤツの攻撃を刀で受ける。それでも受け切れなかった衝撃が志度の体を後方へ押し飛ばした。
「大丈夫か!?」
「ッ、ハァ…ハァ……うん、何とかね」
霞の問いかけに、志度は引き攣った笑みを向けて答える。…明らかに無理している表情だ。
「畜生…!」
霞が血が出そうになるほど手を強く握る。
最初はこちらが優勢だったはずなのだが、いつまで攻め続けても化け物は死に至らない。
志度も霞もずっと戦闘状態だ。攻撃を常に続けていると体力が底を尽いてきた。
かと言って攻める手を少しでも緩めると化け物が文字通り飛んでくる。だが悲しいことに二人とも防戦ができるほどの体力はもう残っていない。
「ハァ…ハァ……」
霞も肩で息をしながら、頭を必死に動かしていく。
ここで陽人に頼っても、既に満身創痍の彼を前線に引きずり出しても……何もできずに殺されてしまうだろう。
桜の援護射撃でもあれば全然違うのだが…。
「志度、桜はどこ行った?」
「援護するように指示したんだけど…見失っちゃった…?」
視界の端にいた志度に聞くと、刀を化け物の方へ向けたまま、こちらをチラリとも見ずに答える。
いや、桜に関してその線は薄いだろう…。普段から後衛で援護狙撃している彼女が、敵をすぐ前で見失うことなどあり得ない。
「そんなことより…ヤツ、来るよ」
志度の構えが徐々に低くなっていく。志度の構えを見て、霞も化け物へ意識を集中させる。
「グ…グルル………」
化け物が腰を屈めて突進の構えをとる。これは…当たればひとたまりもないだろう。
「来い……」
霞も剣を構える。その剣の腹に、一本の直線が走る。
「ガァ………!」
すると、鳴き声と共に化け物が一瞬消える。次の瞬間、霞の視界いっぱいに、大口を開けた化け物の顔が近付いていた。
「っ…!」
一瞬驚いた霞だが、押し倒される前に全力で剣を上に振り抜く。
「カァァ……ガッ……!」
霞のカウンターが効いたのか、鼻がぶつかりそうな位に近付いていた化け物が、真上に飛んでいく。
「逃さねえ…!」
霞はそのまま、真上に手を伸ばそうとしたが……。
「霞くん!!!」
志度の叫び声が響く。化け物の身体も、無抵抗のまま宙へ飛んでいく。
そして霞の身体が、力無く地面へと倒れていった。




