掛けなおす鍵、離れ始める日常
『…次また会う時も、今と同じであることを願っています』
そう言った時、彼女を閉じ込める結晶が一回り小さくなり、剣の柄の先が外に出てきた。
「…これを、引き抜けばいいんですか?」
陽人は何となく、そう言っている気がした。
『この剣は、きっと迷っている貴方を上手く導くと思います。それは貴方にとって…残酷で冷酷な、茨の道かもしれませんが』
「…残酷でもなんでも、この剣を取らないとあの化け物には勝てないんですよね…?」
陽人が正面から彼女を見据える。
『貴方が自分を犠牲にする覚悟があるならば、そうとも限らないでしょう』
つまり、陽人には最初から選択肢などなかったのだろう。生憎陽人は、まだ死ぬにはこの世界を知らなさすぎた。
決意した陽人は、無言で柄を握る。
「まだ死にたくはありません。知りたいことが大量にあるので」
静かに放った陽人のその返答に、彼女の顔が僅かに微笑んだような気がした。
「…っ!」
陽人が勢いよく剣を引き抜く。
結晶にヒビを走らせながら抜けていく剣は綺麗な白銀色で、神々しさすら感じた。
蒼い結晶の欠片が小さく飛び散り、地面にパラパラと落ちる。
『ありがとうございます。貴方のこれからの人生に、慈悲の加護がありますように』
彼女の少し嬉しそうな声が脳に響いた。二代に渡って継いできた想い…それを今の陽人に受け止められるとは正直思わない。でも、今は無理だとしても…今の彼女をどうしても無下にはしたくなかった。
「こちらこそ…。あなたにも、慈愛の雫があることを祈ります」
陽人はそう言い彼女に背を向け、化け物の元へ走り出した。




