甘い毒
「お兄様、ちなみに例のデータは取れたのですか?」
森の中の帰り道、コレーが男の方に顔を向ける。
「そりゃあもう。アレを起こせただけでも十分な収穫だよ!期待以上の情報だった!これも、コレーが時間稼ぎしてくれたお陰だよ。ありがとう」
男は機嫌良さそうに、手頃なところにあったコレーの頭を優しく撫でる。コレーはそれだけで蕩けたような顔を浮かべて「はふぅ」と声を漏らした。
単純なやつだと毎度思う、心底コイツは馬鹿だ。…おかげで使い勝手のいい駒に仕上がってくれたのだけれど。
「コレー、せっかくだからお昼に何か食べて帰ろうか。僕はもうお腹ペコペコだよ…」
「はいなのです!!」
嬉しそうな声を上げたコレーの身体がさらに密着してくる。絡みつかれた際どい柔肌が、服やズボン越しに彼女の“メス”を伝えてくる。
…あぁ、これは呪いなのだろうか。気持ち悪い事この上ない。
ただ、この本心は彼女に悟られてはいけない。そう自分を強く戒め、別のことを考えるために無理矢理口を開ける。
「さあ…今頃志度のやつは、どうやってるんだろう…?」
少し考えただけでニヤケが止まらない。何たって相手は伝説に残されるような化け物だ。それも長年封印されてたおかげで、凶暴性は当時なんかと比べ物になるわけがない。
「志度優のことなのです?コレーは別にどうなっていても構わないのです」
「まあ、そう言わないの。今も僕たちの尻拭いを必死に頑張ってくれているんだから」
話が自分から逸れたからか、少し拗ねたような声を上げるコレー。確かに彼女にとってはどうでもいいだろう。
だが、駒を動かす側からしたらそうもいかない。彼も立派な“使える駒”の一つなのだ。
それも、彼に対しては人権や意思なんてものを尊重する必要もない。コレーなんかよりもよっぽど使い勝手が良い。
堪えきれない興奮をクスクスと溢しながら、男はコレーと共にゆっくりと森の外へ出て行った。




