表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・フェイカー  作者: ニシイパスコ
多様な命の在りかた
81/100

“刹那”を上回る刹那

「こいつ…!?」


音もなく迫り来る無数の剣戟。刹那の二つ名を持つ霞でも、その速度に対しては避けるので精一杯だった。


「先程の自信はどこへ行ったのです?」


コレーが刀を振りながら、相変わらず感情のこもっていない目で霞に問いかける。


「この……!」


目の前の小さな少女に手も足も出ない…。圧倒的な実力差に強い歯痒さを覚えながら、頭を少し横にずらす。

すると、霞の頬を少女の刀が鋭く撫でる。


(何なんだ、こいつは…?)


頬を伝う生暖かい液体がもはや汗か血かも分からない。深い傷さえ負ってはいないが、服も所々彼女の刀によって破れてしまっている。


「はぁ、はぁ……」


息が切れ始める。肺が膨らんで、強制的に胸が上下する。

そんな霞の状況を知ってか知らずか、コレーは全く息を切らすことなく、霞の足元を掬うように刀を走らせる。


「くっ……!」


霞はその刀から逃げるために、とっさに真上に飛ぶ。

それは、霞にとって今日一番の重要な選択だった。


「はっ…!」


胸元に迫り来るコレーの刀。空中にいる霞には、それを避ける術などなかった。

だが……!


「……っ!?」


コレーの紅い瞳が霞の前で初めて揺らぐ。

彼女の突き出した刀は、なぜか霞の胸に刺さる直前で動きを止めていた。

するとすぐ近くでドサッと音を立てながら、霞の持っていた大剣が地面に突き刺さる。


「さすがに、予想外だったみたいだな……!」


霞は、両手でコレーの刀を握りしめていた。

握ったままでもポタポタと滴り落ちる血液。恐らくもう両手とも使えないだろう。

なのに、痛みは全くない。これが脳内麻薬なのか…。そんな逸れたことを考えながら、コレーの刀から手を離して地面に着地する。


「想像以上のバカなのです。コレーが今まで見た中で一番のバカなのです」


コレーは力なく刀を降ろし、呆気に取られたような顔を見せる。


「俺だって同感だ。…だが、今なら不思議と勝てる気がする」


地面に突き刺さっていた大剣を片手で抜いて、ゆっくりと構える。

手に一瞬だけ痛みが走ったが、戦闘に支障は無さそうだ。

脳が今までにないくらい冴え渡る。視界も澄み切って、彼女の一挙手一投足も見逃す気がしない。

今なら……この少女をやれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ