独りのちっぽけな行動
太陽が徐々に森を照らし始めた頃、草で出来たベッドの上で寝転ぶ男の姿があった。
「…もう、朝か」
昨夜の志度とのやり取りの後、何となく小屋に帰る気になれなかった霞はそのまま自然の中で眠っていた。
目を覚ました霞は睨むように周りを見渡す。視界には変わらない自然が続いていたが、何か森がざわついている様な違和感を感じる。
「…何があった?」
昨日眠る直前までは無かった違和感。霞が寝ている間に何かあったのだろうか。
霞が今まで感じた事のない独特の雰囲気に少し胸がざわつく。
『………ゥォォォォォ………』
森の遠くから何かの雄叫びが響く。狼のような…獅子のような…。
本能が激しく警鐘を鳴らす。無意識に足が半歩後退り、土の擦れる音でハッと我に帰る。
「なんだ…これ…?」
霞の身を、今までにないほどの恐怖が覆い尽くす。嫌な汗が全身に浮かび始めて、どうにも思うように身体が動かない。
少し遠くで、大量の木々が無差別になぎ倒される音が聞こえる。
もう気のせいにすることはできない。この山で“何か”が目覚めてしまった。
「まさか…そんな訳……!?」
霞の脳裏に嫌な想像が浮かぶ。こういう時の予感はよく当たるもので、考えれば考えるほど点と点が線になっていく。
「あの野郎…ふざけやがって……」
歯が割れんばかりに強く噛み締める。
恐らく彼の仕向けた罠なのか…偶然にしては出来すぎているとしか思えない。
今はここに居ない男を強く恨む。彼があのことを知らない訳がないはずだ。
身体の震えをなんとか怒りで抑えながら、霞の姿が少しずつ声のした方へ向かっていった。




