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暗闇に響く靴音
時刻が20時を回り、山が暗闇に覆われる。
「…ここか」
苔の生えた洞窟の入り口で、黒いローブを深く被った男が明かりも持たずに立っていた。
彼は持っていた紙と洞窟を何度も見比べて、中に脚を踏み入れてく。
天井から水がポタポタと滴り落ち、中でいくつも枝分かれする洞窟。それを迷いもせずにスタスタと歩いていた。
「名も無き英雄。かの伝説を一目する資格を私に…全てを襲い、全てを喰らう逢魔の覇気を私に」
進んだ先で現れた行き止まりに静かに語りかける男。彼の声を聞く限り、年齢は志度とあまり変わらないだろう。
『資格を見せろ。私の跡を継ぐに相応しいものを』
男の声に応えるように、行き止まりの向こうから、しわがれた老人の声が聞こえる。
その言葉を聞いて、男が壁に手を当てる。するとそこにあったはずの壁がグニャリと歪んでいき、いつしか奥に続く道が現れていた。
それを見た男が口の端を軽く吊り上げ、洞窟の奥へと歩き始める。
カツ…カツ…カツ…と、不穏な音が洞窟内を反響していた。




