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ロスト・フェイカー  作者: ニシイパスコ
初めての合宿
67/100

挑発ピエロの……

「さってと〜」


意気揚々と楽しそうに森の中を歩く志度。その後を陽人が心底嫌そうな顔をして着いてきていた。


「あの…次は何をするんですか?」


陽人が恐る恐るといった感じで聞いてみる。すると志度がクルッと全身を振り返らせ、笑顔で別の質問をぶつけてきた。


「それよりも陽人くん、午前中の練習終わりとは違う君の身体の変化…気付いてる?」


どう言うことか…?陽人にはその質問の意味が分からなかった。

その様子を見て、志度が大ヒントをくれる。


「さっき、わざわざ小屋に戻った理由って何だっけ?」


「そんなの、昼食…じゃなくて、身体が痛いから……。あれ?」


そう。練習を中断した理由は陽人が全身が痛すぎたから、その休憩という理由だったのだが。


「もう全然痛くない…」


いつの間にか全身の痛みは消えていた。それどころか、酷使した筋肉の痙攣すらも、他の全ての症状も消えている。

いつ消えていたのか思い出そうとしてみるのだが、桜の膝枕を体験した頃には治っていたような、治っていなかったような…?


「もしかして、桜には治癒の特殊能力があったのか…?」


「な訳ないでしょ、桜くんに特殊能力とか無いからね。…むしろ無い方がいいよ、こんなもの」


「え?何て言いました?」


陽人のテキトー発言に呆れた様にツッコミを入れる志度。その後に何かボソッと呟いた気がしたが、その言葉は陽人の耳には届かなかった。

いつもの志度らしくない。忌み嫌う様に吐き捨てる彼の顔には、醜い嫌悪と憎悪が表に出ていた。


「さて、そんなことよりも!元気になったのなら次は違うことしよっか!」


「次は何するんですか…?」


志度は顔色をパッと切り替えて、いつもの意地悪そうな顔になる。

もうこれ以上実践練習について聞くのは抵抗しかないのだが、話が進まないので仕方なく説明を求める。


「今度はね〜…ほんとのほんと、遭遇戦と同じような感じでやっていこうか!」


「い、いやいや…本当の殺し合いでも始める気ですか?それでどっちか死んじゃったらどうする……」


つもりですか。と続けようとした陽人の声が止まる。

シュッ…と、右頬を掠めるように空を切った赤い剣。陽人を挑発した剣の持ち主は、試すようにニヤリと笑っていた。


「死んじゃったら、その程度の人間だったってことだよ。君も…僕も」


志度の目は全く笑っていない。

頬を伝う一滴の血液を感じながら、陽人は彼に押し付けられた練習内容を飲むしかなかった。

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