挑発ピエロの……
「さってと〜」
意気揚々と楽しそうに森の中を歩く志度。その後を陽人が心底嫌そうな顔をして着いてきていた。
「あの…次は何をするんですか?」
陽人が恐る恐るといった感じで聞いてみる。すると志度がクルッと全身を振り返らせ、笑顔で別の質問をぶつけてきた。
「それよりも陽人くん、午前中の練習終わりとは違う君の身体の変化…気付いてる?」
どう言うことか…?陽人にはその質問の意味が分からなかった。
その様子を見て、志度が大ヒントをくれる。
「さっき、わざわざ小屋に戻った理由って何だっけ?」
「そんなの、昼食…じゃなくて、身体が痛いから……。あれ?」
そう。練習を中断した理由は陽人が全身が痛すぎたから、その休憩という理由だったのだが。
「もう全然痛くない…」
いつの間にか全身の痛みは消えていた。それどころか、酷使した筋肉の痙攣すらも、他の全ての症状も消えている。
いつ消えていたのか思い出そうとしてみるのだが、桜の膝枕を体験した頃には治っていたような、治っていなかったような…?
「もしかして、桜には治癒の特殊能力があったのか…?」
「な訳ないでしょ、桜くんに特殊能力とか無いからね。…むしろ無い方がいいよ、こんなもの」
「え?何て言いました?」
陽人のテキトー発言に呆れた様にツッコミを入れる志度。その後に何かボソッと呟いた気がしたが、その言葉は陽人の耳には届かなかった。
いつもの志度らしくない。忌み嫌う様に吐き捨てる彼の顔には、醜い嫌悪と憎悪が表に出ていた。
「さて、そんなことよりも!元気になったのなら次は違うことしよっか!」
「次は何するんですか…?」
志度は顔色をパッと切り替えて、いつもの意地悪そうな顔になる。
もうこれ以上実践練習について聞くのは抵抗しかないのだが、話が進まないので仕方なく説明を求める。
「今度はね〜…ほんとのほんと、遭遇戦と同じような感じでやっていこうか!」
「い、いやいや…本当の殺し合いでも始める気ですか?それでどっちか死んじゃったらどうする……」
つもりですか。と続けようとした陽人の声が止まる。
シュッ…と、右頬を掠めるように空を切った赤い剣。陽人を挑発した剣の持ち主は、試すようにニヤリと笑っていた。
「死んじゃったら、その程度の人間だったってことだよ。君も…僕も」
志度の目は全く笑っていない。
頬を伝う一滴の血液を感じながら、陽人は彼に押し付けられた練習内容を飲むしかなかった。




