パンに挟んだお手軽料理です。
ぶつけた頭を軽くさすりながら、陽人が奥の部屋から出て行く。
そこにはダイニングテーブルと、簡単な調理ならできそうな小さなキッチンのある部屋がある。部屋の奥の壁には玄関のドアもあり、小屋から出るにはこの部屋を通らなければいけない構造になっていた。
そしてそのテーブルの上には、何か焼いた肉を大きなパンに挟んだものが人数分皿に盛り付けられていた。
「…うまそう」
先程まで全く主張していなかった陽人の胃が、肉に絡められている甘辛いタレの匂いに吊られて自己主張を激しくする。
「………」
陽人より先に部屋に来ていた桜も、ただ黙ってその料理を見つめている。心なしか、いつもより少し目がキラキラしている様な気がする。
「ではでは、皆来たところだし昼食にしよっか。ほら、そこの涎垂らしそうな2人も早く椅子に座って」
陽人と桜が料理をずっと見ていると、椅子に座っていた志度が2人に声をかける。気付けば志度の対面に霞の姿もあった。
2人は素直に、というか料理に引き寄せられるように空いている席に着いた。
「ではでは、いただきま〜す!」
「いただきます!」
「いただきます」
「…いただきます」
志度の言葉をそれぞれのテンションで復唱し、全員目の前のパンにかぶりつく。
「うっま!?」
パンで挟んでいたのは生姜焼きだった。口に含んだ瞬間パンに染みた甘辛いタレが口内に一気に広がる。そして、ひっそりと隠れた生姜とニンニクが食欲を更に促進させる。挟まれている肉もとても柔らかく、脂の加減もちょうどいい。
肉の下には千切りのキャベツを挟んでいたのか、シャキシャキとした食感がこれまた陽人の咀嚼を止めさせようとしない。
「う〜ん、我ながら良い出来だね」
これを作ったのは志度なのか、満足げな表情を浮かべながら食を進めていく。
ふと桜の方を見ると、両手でパンを持ってハムスターのように口いっぱいに頬張りながら、完全に夢中になっていた。
「桜、落ち着かないと喉に詰まらせるぞ」
そう言いつつゆっくりと食べている霞。彼は右手だけでパンを持っていて、空いている左腕には包帯が巻かれていた。
「霞、その腕どうしたの?」
陽人はつい気になって聞いてみる。するとパンを口に近づけていた霞が動きを止め、軽く教えてくれた。
「これか?実戦をしていたら怪我をしてしまってな、一応念のために包帯巻いているだけだ。心配するほどじゃない」
そう言ってすぐに食事に戻る霞。視界の端で桜が少し複雑な表情を浮かべていたが、それに疑問を持つ前に志度の声が聞こえる。
「へぇ、霞くんが怪我ってねぇ…。それまた珍しい。一体どんな無茶してたのさ」
「貴様に答える義理はない。食事はありがたいが、だからといって対応を甘くすると思うな」
「霞くんは相変わらずツンデレだなぁ…。桜くん、一体どんなことしてたの?」
霞に質問をバッサリと切られた志度だったが、懲りずに今度は桜に聞こうとする。
桜はその志度の質問を聞いて、チラッと霞の方を向いた。
「桜も、わざわざ答える必要はない」
桜の無言の質問に答える霞。その反応に志度は「ちぇ〜」と言うだけで、それ以上聞く様なことはなかった。
「そういえば、昼からはどうする?ペアを変えたりする?」
話題を変えるように口を開く志度。それに答えたのも、いつの間にか完食した霞だった。
「このままでいい。変に相手を変えて練習が滞る方が時間の無駄だろう」
「だね。2人もそれでいい?」
志度の質問にコクリと小さく頷く桜。こんな状況になっては、陽人も同意するしかなかった。
(はぁぁ…昼からもあの地獄かぁぁぁ……)
心の中で大きくため息をつく陽人。恐らく誰もそんな彼に気づいていないだろう。




