教育をしてあげましょう
「ふっ、はぁ!」
「…おっそい、こんなんじゃ話にならないよ」
陽人と志度の実践練習が始まって1時間程経った頃、志度がそう言って陽人の振る剣を片手でつまむ。
練習が始まった時は、志度がどこからか剣を二本出して真面目な打ち合いをしていたのだが、時間が経つにつれて彼の目がどんどん退屈そうな色に染まっていった。
「陽人くん、本当に今本気でやってる?それともテキトーにやってない?」
「そ、そんなことは無いんですけどね…」
痺れを切らせた志度が、剣を手首でフリフリしながら面倒そうに聞いてきた。
陽人は至って真面目にやっているつもりなのだが…志度はその言葉に疑いの目を向けてくる。
「本当に?じゃああの遭遇戦の時の強さはどこ行ったの?」
「それは…あの、完全にブチギレてたと言いますか…」
正直あの時の記憶は、陽人にはほとんど残っていない。覚えていると言っても、魔力が暴走し始めた時あたりで記憶がほぼ途切れている。
「なるほど。道のりは長そうだなぁ…」
「………す、すいません」
志度が悲しそうにぼやく。その声に、否定どころか苦笑もできない陽人にとっては居心地が悪い事この上なかった。
「はぁ…まあ、嘆いてても仕方ないよね。地道に地道に、きっちりと教育してあげるよ」
志度が独り言のように深いため息をついた後、腰を落として剣を構える。
「…っ!」
その姿を見た陽人も気を引き締め直して剣を握る手に一層力を込める。だが、その覚悟はすぐに無意味だと知ることになった。
一瞬歪んだ視界。次の瞬間、陽人の視界には誰もいなかった。
「が、は…!?」
急に飛びそうになる意識、少し遅れて腹部に強まってくる鈍痛。
陽人のみぞおちにめり込んだ志度の拳。それは陽人の肩に回って、崩れそうな彼の身体を優しく支える。
「…合宿が終わる頃には、このくらいの速度には追いついてもらうよ」
耳元で呟かれる志度の声、その声音にはいろんな感情が織り交ぜられていた。




