二つ名持ちの静かな会話
陽人たちと別れた後、霞と桜も森の中を歩いていた。
「桜、お前の目に陽人はどう映っている?」
「どうって…?」
少し歩き、開けた場所に出たところで霞が桜の方に向いて聞いてきた。
「俺にはよく分からない。あいつは…まるで沼のような感じがする」
「沼…?」
霞の例えはいつもイマイチ分からない。桜にとっては彼の方が沼に見えて仕方ないんだが…。
(一応年単位の付き合いにはなるんだけど…)
「すぐに限界に付くのに、その限界の上限そのものがどんどん上がっていくような…」
「…本当の限界がいつまでも見えないってこと?」
「あぁ、そういうことだ」
桜の言葉に納得したように頷く。だが、桜の感じた陽人への印象は全く違っていた。
「私も一度あの人を狙ったけど…状況を利用するのが上手いとは思ったけど、そんな風には思わなかった」
「そうか…」
霞が静かにどこかを見つめたまま呟く。その目がどんな感情を宿しているのか、桜には皆目見当もつかない。
「桜、あいつは…陽人は神器を宿す力があると思うか?」
「……それを私に聞くなんて、霞はひどいね」
霞の質問に、後ろを向いて彼の視線を追いながら消え入りそうな声で答える。それを聞いた霞は動揺する素振りも見せずに、今度は彼女をまっすぐに見据えて問う。
「だが、神器に関してはお前以上の理解者を俺は知らない」
「…どうして、日笠さんをそんなに気にかけるの?私には全く理解ができない」
桜も霞と向き合って強い目で聞く。その言葉に少し迷ったような素振りを見せた霞は、一言だけこう言った。
「日笠は…似てなくとも、どこか同じ気がする。それだけだ」




