カワイソウな先生
小屋から出てすぐに霞と桜の2人と別れ、志度と森の中をしばらく歩く。
風が草木を揺らす音が耳を打ち、緑に包まれているおかげで心が洗われるようだったが、森を歩いているにしては少し物足りなさを陽人は感じた。
「なんか…静かすぎません?」
「あ〜…生き物の気配がしない、的な?」
志度がしたり顔を浮かべながら言う。
「そう、それです。まるで森の中から俺たちだけが取り残されているような…」
さっきから草木の音が聞こえるだけで、虫どころか鳥の鳴き声一つない。
その独特な雰囲気に、陽人は不気味さを抱いてしまっている。
「実はね、その昔この森には怪物が住んでいてね…」
「え、なんですかやめてくださいよ」
志度が前を向いたままいきなり語りだす。今の陽人にとってはそれだけで恐怖心が煽られ、いつもより早口になった。
「その怪物は常に飢えていてね、出逢った動物を片っ端から喰い散らかしていたんだ」
「やめてくださいって言ってるじゃないですか、首へし折りますよ」
「ちょ、陽人くん!?今の君の方が怖いから!ほら、ドゥドゥドゥ」
陽人の言葉を無視して話を続けようとする志度に、つい右腕を唸らせる。
流石に志度も命が惜しいらしく、急いで陽人を宥めようとするが…先生、それは馬に対してです。
「はぁ…分かりました。で、その冗談話より武器について気になるんですが?」
今の陽人はもちろん、志度さえも何も持っていない。今もし猛獣にでも遭遇したらどうするつもりなのか。
少し焦りをこめた陽人の口調に、志度は悲しそうな顔を浮かべる。
「その武器について説明するために、さっきの話をしてたんだけどなぁ…」
「え?さっきの話、関係あるんですか?」
つい志度の言葉を聞き返す。
すごくノリノリで…しかもいいニヤけ顔で話していたのでてっきり冗談だとばかり思っていた。
「そりゃ今陽人くんに変なこと言っても仕方ないでしょ。もしかして、僕のこと思いっきり過小評価してる?」
志度が少し悲しそうな顔を浮かべながら陽人に聞いてきた。恐らく、今事実を言わなければ彼は泣き出すかもしれない。そう考え、陽人は断腸の思いで真実を告げる。
「もしかしなくても…過小評価してたかもしれません」
割と言葉はすんなりと出た。罪悪感も特にない。
「ひっどいよ陽人くん!!!???僕一応先生だから!何なら結構頼りがいがある教師って評判だからね!?」
陽人の心中を聞いた志度は今までで一番うるさい声を上げながら陽人に抗議する。
何だこの大声、これだけで鼓膜が逝きそうになる…!
(ていうか…いや、ない。今までの言動からしてそれはない)
志度の必死の弁明も陽人の心には届かず、心の中で軽くあしらわれるまでに留まってしまう。
「というか、武器の話をしてくださいよ。志度さんがすごい人っていうのはもう分かったので」
「うぅ…ひどい。先生って言ってくれないし、武器の話を止めたのもそっちなのに…」
陽人の傍若無人な対応にとうとうガチ泣きする志度。その姿を見て流石に若干の良心が傷み始めた陽人だった。




