陽人の深刻な下着事情
その後しばらくして、霞が部屋に戻り桜が目を覚ましたところで、志度が説明を始めた。
「…と言うわけで、遭遇戦でトップ3に入った生徒はこうやって三日間の合宿に行く事が恒例なんだ」
「あの、志度さん。どうして俺にはその予告が無かったんですか?」
志度の説明が一段落したところですかさず陽人が質問する。というか、これに関しては志度は答える義務があるだろう。
「それはね…。単純に話すのを忘れてたんだよね」
そう言いながらアハハと笑いながら頭に手を当てる志度。え、この人何で笑ってるの?
「残念だが、合宿については俺たちにも説明はなかった」
「と言うか、遭遇戦トップが合宿に行くのは常識すぎて忘れてました。失念してた私も、ごめんなさい」
「いやいや!秋月さんが謝ることじゃ無いから!顔をあげてください、ね!」
これが灯台下暗しというやつなのか。隣で陽人に頭を下げる桜に戸惑いつつ、なんとか彼女の謝罪を終わらせる。
「教師生活も相当長いけど、一年や転入してきた人がいきなりこんな順位を取ることも今までなかったから…本当にごめん!」
志度も顔の前で両手を合わせて陽人に謝る。教師生活が長いが故の先入観なのか…とにかく本人が誠心誠意謝ってくれたのだ。これ以上怒るほど、陽人も子供じゃなかった。
…それに、来てくれと言われた時に何も疑問を持たなかった陽人にも少なからず非はあるだろう。
「まあ、なら良いですけど。でも、三日間って言いました?俺、服これしか無いですよ?」
陽人が今着ている制服を摘んで志度にアピールする。何も持たずに手ぶらで来た自分が恨めしい…。そう思っていたら、桜が一つのバッグを差し出してくれた。シンプルな黒地の、1人用にしてはとても大きなバッグだ。
どこかで見たような…と記憶を遡ると、確かバスに乗る前にも一度見せてくれていたものだった。
「この中に、私の荷物と一緒に日笠さんの着替えも一緒に入れてます。なので、是非使ってください」
「え、本当に?あ、ありがとう!」
桜の言葉に軽く感動を覚える陽人だが、彼の脳内に少しの疑問が出てくる。
「それって…下着とかも?」
「はい、下着もです」
「そ、そうですか…」
歳の離れた親にならまだしも、年頃の…ましてや同じ学年の、それに可愛い女子に自分の下着を選別されるとは…。
恥ずかしいやら情けないやらで複雑な心境の中モヤモヤしていると、霞が呆れたような声を出す。
「言っておくが、お前の下着は俺が選んだ。桜に見せたりなどもしていない」
霞のその言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろす。まあ、同性に選ばれるのも抵抗があるが…異性に選ばれるよりかはよっぽどマシだった。
あれ、でももしかして…。
「一応聞いておきたいんだけど、霞の…」
「全部店で買った新品だ、開封もしていない。気になるなら後で確認しておけ」
霞が食い気味に声を被せてきた。よく見れば彼の眉間に軽く皺が寄っているように見える。
(ほんと…疑い深くてすいません)
その後も、霞の皺がなくなるまで心中で謝罪を続ける陽人だった。




