もう全部これが悪いです
「と〜ちゃく!!」
校庭で言い合っていた時から約5時間。休憩を一度も挟まずにずっと運転をしていた志度が、元気にバスから降りて満面の笑みを浮かべる。
「おい…もう少しまともな運転はできないのか」
志度の後ろから霞が少し青い顔をしながら出てきた。ちなみにその車内では…
「うぅ…うぅぅ……。で、出る…朝のおにぎりが…おにぎりが…」
「すぅ…すぅ…。ん、んん……?」
真っ青な顔をして何かを我慢するように両手で口を塞ぐ陽人と、最後列で幸せそうに寝転がっている桜の姿があった。
(志度の野郎…もう先生とか付けるの絶対やめてやる…!!)
陽人は心の中で静かにそう誓った。
志度の運転は上手いのは上手いのだが…同乗者のことなど全く考えてないものだったのだ。
「陽人く〜ん、大丈夫?もし本当にヤバかったら目の前にある袋に出しちゃっていいよ〜?」
志度がそう言うが速いか、ひったくるように目の前にあった袋を取った陽人は、すぐに胃の中のものを全部出し始めた。
「貴様な…今すぐ免許返納してくれ。あいつのためにも」
バスの中で不快な嗚咽が聞こえる中、霞が懇願するように志度に言う。
「別に事故とか起こしてないし、そもそもこんな所で免許返納しちゃったら…歩いて帰るしかないよ?」
「じゃああの粗すぎる運転を何とかしろ!事故とか関係ねぇ!何だあの直角カーブは!60キロは出てたよな!?それに線ギリギリで急ブレーキ踏みまくるド阿呆がどこにいる!俺でも何度か酔いそうになったぞ!!」
「ご、ごめんごめん…。ハンドル握ったらつい楽しくなっちゃって…」
誰だ、こいつにバスを運転できるような免許を発行したやつは…。
霞がものすごい剣幕で志度に攻め寄っている中、陽人が死んだような顔を浮かべつつ、例の黄色いブツが入った袋を持ってバスから降りてきた。
「お、陽人くん。気分はどう?」
「死ね、死ね…死んでくれ」
陽人の口からはまるで呪詛のようにその言葉が流れるだけだった。
「陽人くんまでひどいなぁ…。そういや、何であそこまで我慢してたんだろう?苦しかったならすぐ吐いちゃえばよかったのに」
志度の頭にそんな疑問が浮かんだ。出発する前に一応そう言ったはずなんだけど…。
「俺が許可しなかった。あんな匂いが車内に充満したら、俺まで危なかったからな」
「元凶の僕が言うのも何だけど…相変わらず悪魔みたいな人だね」
陽人が袋に手を伸ばす度に殺意の目を向ける霞の図が思い浮かぶ。…うん、あとで陽人くんには何かしてあげよう。不憫でならない。
「元凶も悪魔も貴様だ。…そろそろ桜を起こしてくるか」
霞がそう言ってまたバスの中に向かった。もしかして、外の空気吸って酔いを覚ましてたのかな…?
2人がどこに行って、手持ち無沙汰になった志度は深呼吸でもしてみる。うん、街とは違って新緑の綺麗な空気だ。吸っていて気分が良い。
そんなことしていると、バスの中からは霞と、見るからに眠そうな桜が。その反対側の茂みからは、げっそりぐったりとしている陽人が姿を現した。
「ではみなさん!これから合宿地へと行きましょう!!!」
三人の姿を認めた志度は、目の前に堂々と広がる大きな山を指さして声を張り上げた。
「お前には人の心というものはないのか…」
「ん〜…あと3時間……」
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね………」
それぞれ三者三様の反応で志度の方に向く。
(うん!みんな元気そうで何よりだ!!)




