グダグダしまくる合宿前
ふとテキトーな言い合いをしていると、校庭に大型の白いバスが停まっているのが目に見えた。
「あの、先生?あれ、なんですか」
いつもあそこには何もないのだが…。気になって志度に聞いてみる。
「あれ?…陽人くん、僕は君にもバスくらいの知識はあるものだと思ってたんだけどね…?」
志度がとても深刻そうにそう返した。いやそうじゃねぇよ。
「志度せんせぇ…今は俺にあまり刺激を加えないでください…?」
陽人は青筋をピクピクさせつつ、引き攣った笑みを志度に向ける。流石に陽人本人も青筋がそろそろ切れそうで怖くなってきた。
「えっとね…。今から合宿に行くんだけど、徒歩で行くのは流石に遠いから…あれに乗って行こうかと」
「聞いてねぇよそんなこと!!いつ話した?そのこと俺にいつ話したぁ!?」
苦笑を浮かべながら話す志度の襟元を掴んでブンブンと揺さぶる。なんだよ合宿って!?
プッチンと切れた陽人の肩に、後ろから霞が手を乗せてきた。
「こいつはこういうテキトーな奴だ。諦めろ」
霞の方を向くと、彼の顔には何とも言えない感情が浮かんでいて、何となく志度の性格を察する。
「日笠さん、大丈夫ですよ。もしやと思って日笠さんの分の着替えとか持ってきたので…」
少し陽人の矛が収まったところで、霞の隣から桜が顔を出し、やけに大きい荷物を見せてくれる。
「着替え…?ど、どういうことですか……?」
意味がわからない。え、着替え…?何で?
理解が追いついていないと察した霞が、志度に一歩ずつ詰め寄っていく。
「…おい志度、いつにも増してのその説明不足はどういうことだ。俺だったらもう剣を出しているところだぞ」
「相変わらず霞くんはカルシウムが……ご、ごめん。僕が悪かったから、それしまって欲しいな…?」
「あ?」
「ごめんなさい、その大きな剣をどうかお納めください。今やっては普通に死んでしまいます」
いつの間にか志度の喉元につけられていたあの大剣の切先。それを出された瞬間額から汗が止まらなくなった志度が、容赦のない霞の言いなりになった。
「霞、落ち着いて。この人がこうなのは病気だから仕方ない」
「…桜に免じて許してやる。感謝しろ」
桜の言葉のおかげでやっと霞の剣が首元から離れていく。志度はそれにホッと胸を撫で下ろしつつ、桜の方に恨めしそうな目を向けていた。
「…何も、そこまで言わなくても」
「てか志度先生、結局どこにいくんですか?」
小声でそう呟く志度だったが、それをかき消すように陽人の声が重なってしまう。
「え、何て言いました…?」
「日笠さん、大丈夫。しょうもないことだから」
重なった言葉が気になったが、陽人の袖を引く桜のほうに目が引っ張られた。
彼女の自然な上目遣いに少しドキッとしたが、今度は志度のやけに大きな声に引っ張られる。
「ほら!さっさと合宿地に行きましょう!!早く行かないと日が暮れちゃいますよ!!!」
「…はぁ、これから怖すぎる」
しばらく黙っていた霞の呟き声が聞こえた…ような気がした。




