意外な勝利者
砂煙が徐々に晴れていく。そこに立っていた霞の足元から、光の粒が緩やかに舞っていた。
どこか幻想的に見える霞は、力無さそうに明後日の方を向いている。
「……大丈夫か、桜」
声にも立ち姿にも力はなく、どこか上の空だった。
「…うん、霞は?」
「あぁ、大丈夫だ」
返答も短絡的で、桜に無防備な背中を向けたままだ。
「………」
桜が、自分のすぐ隣の足元を見る。コンクリートが2メートルほどの幅で激しく抉れており、その中心あたりは完全に床が抜けている。
「すごかったね、さっきの人」
桜が霞の耳に届くような声量で、ポツリと言った。
「あぁ。今まで会った中で、一番だったかもしれない」
そう返した霞が桜の方に振り返る。彼の満足げな顔を見た桜は、次の言葉を察した。
「また戦いたいと?」
「悪いが、良いか?」
霞の返答に仕方なさそうに頷き、桜はその辺に置いてあった刀を抜いて近づいていく。
「弓まで使えたのか…?」
「みたいですね。私も初めて見ました」
「神は二物を与えないって言うけど…あの戦闘を見ちゃったら……」
三人は、勝者の霞に対して驚きと疑いの声を上げていた。
真っ暗でモニターの明かりだけが照らす室内。その部屋が、天井の照明で徐々に明るくなっていく。
「よし!ではでは、そろそろ下に降りますか!」
「そうですね、会場ももう十分に温まってると思いますし」
ソファの後ろから元気に立ち上がる千里と、その言葉に便乗する周夜。
「行くって…また起こしに?」
「ん〜ん。さっきの時は陽人くんが転入したばっかりだったから、一応見に行ってたんですよ!」
どうやらそう言うことらしい。まだ学校のことを全く知らないに近い陽人にとって非常にありがたかった。
「あ、陽人さんはここで待っていてください。終わり次第また来ますので」
2人に釣られて立ち上がろうとしていた陽人の動きを、周夜が止める。
さっきのようなステージなら、確かに陽人は邪魔になってしまうかもしれない。
そう考えているうちに、いつの間にか2人はエレベーターの中に入っていた。
「では、行ってきますね」
「待ってる間寝てても大丈夫ですよ!帰ってきた時にまた起こしますので!」
こちらを向いてそれぞれ陽人に言葉を送る。
(いや、流石に寝れないでしょ…)
千里の言葉に軽く苦笑しつつ、陽人は軽く手を振って2人を見送る。直後に閉まる扉。エレベーターが下に降りていく駆動音が、部屋に静かに響いた。




