表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・フェイカー  作者: ニシイパスコ
個人遭遇戦 終戦
48/100

気弱い化け物の片鱗

2人の間に一筋の風が吹く。どこまでも現実に近いVITの世界では、空気の乱れも繊細に感じられる。

「……」

桜の息を呑む音が聞こえた。彼女を別のところに移動させておけば…そんな後悔が霞の胸に渦巻く。

ただこの空気を壊すようなことをできる人間は、今ここにはいなかった。

戸賀の首に、冷えた雫が一筋滴る。

(こんな緊張…味わったことない)

志度の時のような、恐怖と絶望に染まった緊張ではない。

恐怖と圧と…無限に広がる挑戦意欲で満たされていた。

(この人に僕がどこまで相対できるか、やってみたい。あわよくば…勝ちたい!)

霞の先程の言葉のせいか、彼が今こちらに向けている挑戦的な目のせいか…恭弥の感情がどんどん獰猛な好奇心に変わっていった。


「…3、2、1」

おもむろに桜がカウントを始めた。

「…ゼロ」

「……っ!!」

そのカウントが終わると同時に、恭弥は杖を霞に向ける。

(できるだけ速く、重く…!)

周りの魔力をかき集め、イメージを固める。

「ほう、それで魔法が展開できるのか。…面白い」

霞の興味深そうな声を耳に挟みつつ、魔力にイメージを流しこむ。

(火種を生成、酸素を作って燃焼を発生・促進…。周りを魔力の壁で囲んで孤立、絶えず適当割合で酸素を供給…)

2秒ほどか。恭弥の魔法が完成したと同時に霞の方を見据えて発射する。

「…桜、下がっておけ」

霞が駆け出し、恭弥の魔法を身を捻って紙一重のところで躱す。

「…あの短時間での魔法にしては、驚くほどの出来だ」

恭弥に狙われにくいように、霞は彼の頭上へと跳ぶ。

「逃がすわけ…!」

霞の跡を追うように駆けていく幾つもの恭弥の魔法。それ自体は霞の思惑通りだったが、数が想像の倍は近い。

(気が弱いだけで、こいつも化け物か…?)

その光景をチラリと見ながら、空中で弓を構える。

「良い才だ。…俺などよりよっぽど」

「当たれぇ!!」

少し自虐めいたことを言う霞、とうとう彼の目の前に迫る恭弥の魔法。


そして彼の視界に最後に映った光景は、炎を纏いつつ猛進する矢と…期待に満ちた目で見つめる、霞の姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ