猛獣と助けられた子犬
画面いっぱいに映されている先程の戦闘。それを見つめていた三人は、ずっと息を呑んでいた。
「……………」
「……………」
「……………」
画面を見つめる三人。たっぷり静寂が部屋を満たした後、それぞれの反応がポツリと出始める。
「え、…?」
「さっきの…一体、何が…?」
「…分かんない、何にも…」
志度が眼鏡をかけた瞬間、モニター越しにも感じた彼の纏う空気の変化。最後の最後に見せた2人の…流れるようなコンビネーション。
三人の激しいどんでん返しの連続の末、そこから姿を消したのは志度1人だけだった。
「…はぁ、はぁ……」
「はぁ……はっ、あぁ……」
2人してその場で倒れ込む。
霞の息はあまり乱れていなかったが、桜の方は酷く、たまに息が詰まったような声が聞こえる。
少し楽になった霞が桜の放った矢の方向を見た。そこに志度の姿は無く、ただ床が抉れた跡があるだけ。
「……桜、大丈夫か」
「はぁ…だ、大丈夫…。っ…はぁ、ちょっと、慣れてないことした」
霞の問いに軽く笑って答える。…こいつ、明らかに無理してるな。
「少しここで休んでおけ、今は無理すべき時じゃない」
場所もここは建物の屋上。下手に動くよりここでいた方が安全だろう。
それに恐らく、もう残っているのは…。
「えっと……」
ふと、視界の隅にあった屋上の出入り口のドアが重々しく開く。
「だ、誰…!?」
ドアの音に反応し、もう数本しか入っていない矢筒に腕を伸ばす桜。
「……」
彼女の動きを、霞が腕を伸ばして制止する。
「た、助けてくれてありがとうございます…」
申し訳なさそうに揺れる一筋の茶髪、女性のような華奢な体格と顔。見るからに敵意は無い。
「お前…武器はどうした」
敵意どころか、戸賀は武器を携えてなかった。
「あ、あはは…持ってても意味ないですよ、勝てるわけないんですから」
戸賀が力なく笑う。その言葉を聞いて霞の空気がほんの少しピリつく。
「霞、落ちついて。怒っても意味ないよ」
「………武器を持ってこい。どうせここはVITの中だ、命に怯える理由なんてない」
桜の言葉に、少し落ち着いた霞がそんなことを言い出す。
「は、はい!わかった…」
霞の威圧に畏まった戸賀が、急いで武器を持ってくる。
「桜、これ頼んだ」
「うん、分かった」
戸賀が大剣を桜に任せる。落ち着いていた桜がそれを受け取り、その代わり自身の弓と矢を差し出した。
霞は無言でそれを受け取り、戸賀を待つ。
「…お待たせしました」
少し待っていると、またドアが開いて戸賀が姿を見せる。その手には長い、凹凸の木製の杖が持たれていた。
「全力でこいよ。じゃねえと、リアルで殺ってやる」
「……はい」
霞の脅しじみた低い声。それを聞いた戸賀は、覚悟を決めたような目をしていた。




