先生のお戯れ
もう何度目かの空を切る音。志度の振る刀は今までより明らかに速く、重くなっていた。
「くっ…!?」
霞は身体を大きく仰け反らせて何とかその刀を避ける。
志度はその無防備になった身体に刀を向けるが、どこからか飛んできた矢に動きを阻まれた。
「…また桜さんと一緒?もしや二人、付き合ってるの?」
「ただの前衛と後衛なだけだ…!」
志度のふざけたような質問に、明らかにイラついた反応を見せる志度。
志度が少し止まった瞬間に、間髪入れずに攻め入る霞。
迫る大剣を刀で軽く去なしながら、思わずため息をこぼす。
「本音を言うと、二人を同時に相手にするのは嫌なんだよね。面倒なこと極まりない」
いつの間にかこちらに向かっている五本の矢を、その場で全て斬り伏せる。
「この化け物が…!」
舌打ちをする霞の懐にいつの間にか潜り込んでいた志度が、容赦なく彼の脇腹に刀を刺し込む。
「なっ…!クソが!!」
剣を地面に突き立てることで何とか攻撃を凌いだが、身体が大きく横に吹き飛ぶ。
「間に合って…!」
志度が追撃しようと腰をかがめるが、彼が動くことはなかった。
どこからか放たれた矢。見えないそれを当然のように切り落として、とあるビルの方を向く。
「お…。場所を教えてくれてありがとう」
「気付かれた…そんな馬鹿な…!?」
志度の視線の先。それを辿ると、弓を構えた桜がいた。
その彼の視線に桜が気付いた頃には、志度は彼女の方に跳びだしていた。
足に赤黒い何かを纏わせる志度は近くの建物を軽々しく飛び越え、さらに高い建物へと飛び移っていく。
「行かせるかよ…!」
急いで全身に魔力を注いだ霞がすぐに志度を追いかける。
「何で付いてくるかなぁ…。邪魔なんだよね」
少しずつ縮まる2人の距離。それが交わりそうになった時、志度が霞の方に刀を振って堕とそうとする。
「そう簡単に、堕とされるわけ無いだろうが…!」
振られる刀と剣が勢いよく交わる。
辺りの空に響く金属音。その音は、少し離れた桜の耳にも届いていた。
「ありがとう、霞…!」
呟いた桜が、空中で交わる2人を見据えながら矢を射る。
放たれた矢は周りの空気を巻き込んで、大きな渦となって志度を飲み込もうとする。
「空中にいる人を狙うなんて。…なんていい性格をしてるんだろうねぇ!」




