大会の醍醐味
「はぁ、はぁ、はぁ…くっ!」
物影に隠れ、身体の随所で痛む傷を庇う。右腕、左太もも、左脇腹…他にも挙げればキリがない。
そろりと顔を出して状況を確認する。
そこに広がるのは少し荒れただけの綺麗な街。公園の遊具や砂場が、遊ぶ相手を探して彷徨うように建っていた。
眼球を必死に動かし、視界の中を隈なく探す。
「……いた!」
公園内の、滑り台とシーソーの間。公衆トイレのような建物の影からとある人影が姿を現す。
滲む視界の中、ゆらゆらと揺れるその人影。
いつも同じ教室で、一緒に同じ授業を受ける級友にここまで緊張と恐怖を覚えるなんて…これがこの大会の醍醐味だろうか。
濃藍色の制服が、黒のズボンが…相手の着ているもの全てが自分と同じなのに、相手の方が自分よりも圧倒的に格が上に見える。
「…っ!」
相手もこちらに気付いたか、短めの赤毛の下にある両目がこちらを捉えたように見える。
「戸賀ぁ…やっと見つけたぜぇ…?」
たまに放課後にカラオケで歌ったり、ゲーセンでお互いに取った景品を渡しあったり…普段仲のすごく良い友達が、卑しそうに舌なめずりする。
この人と戦って、負けた方がラーメンを奢ると約束していたのだが…このままじゃ身銭を切るのは恭弥になりそうだ。
「……ふぅ」
どうせ負けるならと、重い一歩を踏み込んで戦闘の意思を表明する。
彼はすでにこちらに走ってきていた。もう公園を抜けていて、残り100メートルの距離もないだろう。
なら…!
「これでも…喰らえっての!」
持っている長い杖を相手に向け、魔力を軽く練る。
…残り50メートル、時間はもうほとんど無かった。
練った魔力を使って魔法を展開、もはや詠唱を唱える余裕もない。
「悪りぃな…ラーメンは俺が貰うぜぇ!!……あ…!?」
大声をあげて勝利を確信する相手、その姿は遠くの砂場まで吹っ飛んでいた。
「はぁ、はぁ…仕切り直そうよ、勢野!」
「あ〜!くっそ!!あそこで魔法とか反則だろうがよぉ!!」
砂場の中で尻餅をついたように座り込んで、頭を掻きむしる勢野。
規模の制御を考えなければ一番簡単な、風の魔法。手元にまだ少し魔法の余韻が残る中、相手を吹き飛ばせた事で安心する恭弥。
「今度は僕から行かせてもらう…よ…?」
もう一度勢野に呼びかける頃に、彼の姿はそこになかった。
「…おや、戸賀くん。こんなところで何をしているんですか?」
勢野に刀を刺し込み、こちらを向いて醜く笑う志度。その光景を見た恭弥は…何もできなかった。




