一瞬のトラウマ製造現場
「…………」
陽人のいる部屋は静寂に包まれていた。
理由は、数分前にモニタに映された霞と桜の映像だった。
「さっきの…なんだったんだ…?」
菜季戸と霞の対峙。もう1人の女子生徒に面識は無かったが、立ち振る舞いや余裕に満ちた動きから、きっと只者ではないことは容易に想像できた。
「あれが朝霧さんの、刹那としての顔です…」
陽人の横で、周夜が画面を真剣に眺めながら呟く。
彼の綺麗な顔の頬あたりに汗の跡か…モニターの光が反射して光って見える。
「刹那……ですか」
本当に刹那の戦いだった。
というか陽人には、霞の動きがほぼ見えなかった。菜季戸が一瞬で間合いを詰めて、霞が大剣を持って振り返って…気付けば菜季戸の首と体が分断されていた。
“刹那”と言う名前に恥じない…一瞬の、冷酷で、残忍な交わりだった。
「俺、本当にあの化け物を倒したんですか…?」
見ていて志度と同等…いや、ある意味志度以上に恐怖を覚える戦いだった。
誰かが…確か千里が言っていた“対峙した皆さんのトラウマ”という言葉が陽人の胸にすっと落とし込まれていく。
陽人の呟きに反応したのは、いつの間にかソファの後ろで顎を腕に乗せながら観戦していた千里だった。
「そうだよ。最初は確かに霞くんは手加減をしていたと思う。でも、陽人くんの構えが変わった後からは…さっきの戦い以上に凄かったよ。2人の尋常じゃない集中力、一瞬のミスで簡単にひっくり返る拮抗した状況。本当に観戦してる全員が、ずっと息を呑みながら2人を見守っていたんだよ」
「そうなんですか…」
いつもとは全く違う、真剣で静かに語る千里。
モニターの光に照らされた彼女の大人びた表情は、いつもの元気な雰囲気とはまた違った印象を感じさせた。
「そうですよ。だからこそ決着がついたとき、日笠さんが勝利したと分かった瞬間の会場の盛り上がり様は本当に凄かったんですよ」
千里の言葉を引き継ぐ周夜の声もまた静かだった。
三人の視界の先。あの戦闘が映っていた映像には、弓を構えている女子生徒だけになっていた。
「あれ…?」
モニターの中をざっと探してみるが、霞の映っている映像はなかった。
「霞くん、どこかに移動してるみたいだね」
「ですね、映像も途切れましたし」
2人の会話の内容から、陽人もある程度察しが付く。
もしかすると、彼がずっと待っていた標的が見つかったのか…と。




