街にある高い影
廃校舎のオブジェクトから東北へ少し離れた場所。そこにはまるで近未来都市のような、キレイで複雑な形のビルが立ち並んだ街が広がっていた。
「…あ、見つけた」
その中の一つのビル、都市のシンボルタワーのような場所から、フードを深く被った1人の女子生徒が双眼鏡で街の中を見つめていた。
「何を見つけたんだ?」
女子生徒の後ろから、少し不機嫌そうな声の男子生徒の声が聞こえた。
「えっと…菜季戸先輩だっけ?前回優勝した人」
「あぁ、あれか。どうせ勝手にくたばるだろう。無視しておけ」
男子生徒はどこか興味なさげに、ぼやくように答える。
「そうしてもいいんだけど…どうやらこっちに来てるみたいなんだよね〜」
女子生徒も同じように興味なさそうだ。
「知らん。同じ階に来たら俺が潰せばいい」
そう言う生徒の右隣には、人の身長ほどありそうな大きさの大剣が壁に立てかけられていた。
「そう?霞がそう言うならそれでいいけど…」
一瞬男子生徒の方に振り返ったが、女子生徒はまた何事もなかったように視線を元に戻す。
「それより、あのジジイは見つかったか?」
「もう…ジジイとか言わないの。一応相手は先生なんだし、毎日お世話になってるでしょ?」
「ちっ。…志度はいるか?」
口の悪い男子生徒を、女子生徒が軽く諭す。
舌打ちしつつも、諭された彼は素直に言うことを聞いていた。
そして流れ始める無言の時間。2人とも無言でいるその空間に、エレベーターから扉の開く音が聞こえる。
「…お前ら、こんなところで何をしている」
その中から壁のような大男が現れる。
「あ、菜季戸さん。そういや近付いてるんでしたね」
菜季戸がしかめっ面で2人を見据える。
「来なくていいのに…どうしてこの階層に来ちゃったんですか」
面倒くさそうに大剣を持ち、ズルズルと引きずりながら菜季戸の元に歩いていく男子生徒。
「お前…!」
菜季戸はとりあえずは室内に入ってきたものの、そこから一歩も動かない。
(朝霧と秋月…よりによってこの2人か…)
いや、動かないのではない。少しでも勝算が欲しいために、動けなかった。




