感情が死んだ殺人鬼
何人もの生徒や教師が、各々の武器を持って戦っている。
相手を罠に嵌めて倒す者、正々堂々とぶつかる者、それこそ映像の数だけ戦法は違って見えた。
そのモニターの片隅で異様な映像が。廊下のような場所で、刀を持った男性が何人もの生徒を舞うように斬り伏せる…そんな映像が流れていた。
「あれ、誰ですか?」
どこかで見た事あるような…でも微妙に思い出せないその男性の姿に、陽人は気になって周夜に聞いてみた。
「その人は…志度先生です。日笠さんのすぐ前に、霞さんを追い詰めた方ですよ」
「そうなんですか…」
異常に怒っていた生徒のことを思い出す。彼の着ていた服がズタズタに引き裂かれていたのは、志度のせいなのか。
ふと、遭遇戦の説明を受けた時の…あの意味深のセリフが頭によぎる。
無機質のように冷たい、あの非常に嫌な感覚が陽人の意識を志度の映像に集中させた。
「………」
ただ淡々と、目の前にいる人に刀を振るう。
相手は、自分が斬られたことすら認識できずに意識を落としていく。
「……面白くない」
視界の中に映る最後の生徒に刀を突き立て、その人から吸えるだけの血を吸っていく。
もちろんVITの中だ。実際に血を吸えているわけないのだが、こうやって突き立てるだけで糧になるのだから…殊更面白くない。
それなりの量を吸ったところで、もう用のない遺体に成せる仕事などない。
刀を引き抜き、遺体を放置して次の階に向かう。
この建物、廃校舎は狩場としては絶好の場所だろう。真っ直ぐな廊下と教室だけというシンプルな構造。周りのすぐ近くに建物がないため、狙撃の心配も最小限で済む。他のエリアに森や海や街などがあるらしいが、どこもこの場所に勝る程ではないだろう。
3階、この建物の最高階。階段を上がりきり、廊下の行く先を眺める。
「誰もいない…か」
人1人いる気配もない。建物の雰囲気も相まって、まるでこの場所が捨てられた場所のように思えてくる。
先程誰かさんが壁に突き立てた矢も、壊れた壁も、崩壊しかけさせた教室も…全部夢のように修復されていた。
…まあいい、誰も居ないのであればこの場所も用済みだ。
志度はおもむろに廊下の窓から飛び降りて、次の場所を目指した。
「……なんだ、あの人」
「私も、毎回あの人の映像を見ているんですけど…まるで感情を失った殺人鬼みたいですよね。いつものあの優しい雰囲気なんて微塵も感じられません」
本当にその通りだ。周夜の選んだ言葉以上に当てはまる言葉が見当たらない。
きっと霞の前に志度に遭遇してしまっていたら…きっと陽人はこの場所には居なかっただろう。
映像の中でゆっくりとどこかへ歩いていく志度。戦闘が終わったからか、彼の映像はそこで別の者の映像に切り替わった。




