きれいな街と弱い君
「お待たせしました、着きましたよ」
エレベーターを降りるとそこは廊下ではなく、直接大きな部屋に繋がっていた。
「なんか…すごい部屋ですね」
全面ほぼガラス張りの部屋。7階という高い場所から見える街の景色は絶景で、目を見張るものがある。
このあたりは低めの建物が多いのか、7階の時点で近くの建物は大体見下ろせるようになっていた。
道路や建物の全てが透明感のある淡い水色のように見え、快晴の空も相まって、街全体が水に覆われているような…そんな印象を受ける。
ただ公園には緑が多く、色のメリハリが出来ているおかげで、ずっとこの景色を見ていても飽きる様子が全くない。
「どうですか?ここから街を眺めた印象は」
外の景色に気を取られていた陽人に、周夜が微笑ましいそうに話しかける。
「なんか、水色で統一されているようで…すごい綺麗な街並みですね」
まるでありきたりな感想しか出てこない。陽人の語彙が少ないのもあるだろうが、この透明感に満ち満ちた風景をどう表現しようか。
地上から見上げるのとは全く違う、慣れているはずの街の見たことない表情に、ただ息を呑むしかなかった。
「うぅ、シューくん…もう…無理」
陽人が街の景色に感動していると、青い顔をした千里がゆらゆらとエレベーターから出てきた。
「はいはい、今肩貸すから。しっかりして」
周夜がすぐさま千里に近づいていき、肩を組んで彼女の身体を支える。
そのまま何故か置いてあるベッドへ向かい、彼女の身体を横に寝かしていた。
「陰森さん、どうしたんですか?」
少し心配になった陽人が近付いて聞いてみる。
「あぁ、千里は少し乗り物に弱くて…。たまにこうやって、エレベーターで酔っちゃうんですよ」
なぜだろう、さっきから千里の悪いところしか見られていないような気がする…。
それにエレベーターでこんな酔い方をするなんて、陽人には聞いたことがない。
でもそんな彼女も好きなようで、周夜の顔には優しい笑みが浮かんでいる。
「…あ、そういえば。何をしにここに来たんですか?」
部屋の広さからみて、おそらく1階丸々の大きさになるだろうか。そんな巨大な部屋には、書類の棚やいくつかの机や椅子。それとベッド。あとソファやローテーブル等々…。様々なものが所々に配置されており、ここが何の部屋なのかも分からない。
「そうですね。では、早いところ始めちゃいましょうか」
そう言うと周夜は、すぐ近くの机に置いてあったリモコンを手に取り操作する。
すると、部屋の全ての窓に巨大な遮光カーテンが引かれていく。
明るかった室内が暗くなったと思えば、次はソファの前あたりに大きなモニターが出てきた。
モニターの電源が付き、何かの映像が流れ始める。
「これは…?」
「個人遭遇戦の、二位決定戦ですよ」
そのモニターの中でいくつも分けられている映像の中、何人…何十人もの生徒が、ひたすらに戦っていた。




