移動中のちょっとした一幕
そのまま三人は廊下を進み、エレベーターがいくつもある部屋に来る。
「ここは“エレベーターホール”です。多分VIT室に来る時に使ったと思うんですが…覚えてますか?」
「あ、はい。教室に行く時とか、階の移動とかでよくお世話になってますし」
なんだかんだこの学校に通い始めて1週間と少し経っており、その中で何度も利用していたこの部屋は、陽人にとって馴染みの場所になっていた。
「お、さっすが〜!」
陽人のすぐ隣を歩いていた千里が、軽く手を叩きながら陽人を称賛する。
三人ともエレベーターに入り、周夜が7階のボタンを押す。
「7階って…何があるんですか?」
普段は移動教室でも5階までしか使わない陽人にとって、7階は未知の領域だ。
そこからの純粋な疑問なのだが
「そうですねぇ…着いてからのお楽しみってことでどうでしょう?」
ニヤリと笑った周夜が、回答をはぐらかす。
千里の方を向いて説明を求めても、
「シューくんが言ってない以上、私も答えられないな〜」
涼しい顔でそう言われた。
「じゃあ…俺たち以外に誰も見かけないのは、何か理由とかあるんですか?」
そう。先程あの部屋を出て以降、陽人はこの2人以外誰も見かけていなかった。
見かけないどころか、声も足音も聞こえない。
その疑問に答えてくれたのは、驚いた千里の声だった。
「え、陽人くん聞こえてなかった感じ?」
「あれ、もしかして説明してくれてました?」
まさかと思い、必死に少し前の記憶を探る。だが、陽人の記憶にはそれらしい説明は一つも残っていなかった。
「さっきのインタビューの時に…あ、そういえば陽人くん…お人形さんみたいに全身固まってたね」
「あ、その時ですか…」
インタビューの時の記憶は、正直緊張で何も残っていない。
それを察してくれたのか千里は、にへらっと笑った。
「じゃあ、そのことも後で分かるから。部屋に着いた時のお楽しみだね!」
ただ、ここで教えてくれるほど優しい彼女ではなかった。




