なんだこの二人
「はぁ、疲れた…」
ステージ袖、先ほどまで座っていた丸椅子に腰掛けた陽人は大きなため息をついていた。
ただ座っていただけ。それに、特に何か考えていたわけでも無いのだが…とにかく疲れていた。
ちなみにもう観客はおらず、先ほどまでの熱気もどこかへ消えている。
「お疲れ様です。すいません、今思えば状況の説明が全然出来ていませんでしたね」
「ごめんなさい!私もテンションが上がりすぎちゃってて…つい忘れちゃってた」
陽人に対して2人が頭を下げた。
「いや、そこは大丈夫ですよ。ステージに上がるタイミングも、会話のフォローも全部やってくれたんですから。こちらこそ、ありがとうございました」
実際2人の活躍は凄かった。
会話の主導権を常に握ってくれ、でも第三者からは陽人が会場の主役と思ってくれるような絶妙なコメントをしてくれる千里。
細かい演出や、ステージの背景にある巨大モニターへ映す映像を会話の流れによって逐一変えてくれる周夜。
正直この2人のおかげで、陽人は人形のように固まっていても何も問題なかった。
「ちなみにさっきのは何だったんですか?」
何の説明も無い中、勢いと雰囲気だけで乗り切った陽人に、当然の疑問が生まれる。
「さっきのは優勝者インタビューってやつです!今回の優勝者は陽人さんですから!」
「そうです。それもあの三人を相手にして掴んだもの。紛れもなく、正真正銘日笠さんが今回の優勝者ですよ」
「そっか…俺が、優勝者…か」
息を荒げながら顔を近づけてくる千里。彼女の後ろ襟を掴みながら話す周夜の顔も、嘘を言っているような雰囲気はない。
その2人を見てようやっと実感が湧き始めた陽人は、少しずつ優勝という冠を肌に感じていた。
「そういえば、2人はこういう表舞台に立つ事って慣れてるんですか?」
今思えば千里も周夜も、どんなに話が急展開を見せても、困惑することなく即座に対応してくれた。2人のその活躍に、陽人はそんな疑問を覚える。
「そうかな〜。基本三校で何かイベントをする〜ってなって、司会が必要になったら私がやることが多いかな…?」
「そうですね。私も、演出が絡んだりしたら呼ばれることが多いですね」
やはりというか…陽人にとって2人の回答は思った通りのものだった。
「そういえば、私もよく演出の提案とかで呼ばれてたよね〜。あれ、最近はそっちで呼ばれてないような…?」
「僕が呼ばないようにしてるからだよ。千里の考える演出って派手なものばっかりだから…予算が嵩むんだよ」
(おや…?)
「え!?そうだったの!!?…シューちゃんも苦労してるんだねぇ。おー、ヨシヨシ」
目を閉じてこめかみを抑える周夜の頭を、腕を伸ばして優しく撫でる千里。どう見ても煽りにしか見えないのだが、
「…そういうのは、人のいない場所でやってくれるかな」
「あ、ごめんごめん」
(あれ…?)
少し拗ねたように、でも先程よりは明らかに棘が無くなっていた周夜を見て、陽人は2人の関係が分からなくなっていた。
「えっと…もしお邪魔なようでしたら、俺どこか行きますんで…遠慮なく言ってくださいね?」
ここでの立ち位置が分からなくなった陽人は、いそいそと部屋を出ようとする。
「え、あ待って待って!そんなのじゃ無いから!!」
「そ、そうですよ!別に僕達そんな関係じゃありませんから!!!」
陽人の言葉を聞いて急に赤面する2人、特に普段冷静な周夜の焦りっぷりは中々面白かった。
(いや、そういうところなんだけどなぁ…)
誰もがそう思うだろうが、2人が否定している以上聞くだけ野暮というものだろう。
「と、というか!日笠さんの出番はまだ終わってないんですよ!」
「え?まだあるんですか?」
自身の焦りを勢いで誤魔化しながら、周夜が声を張り上げる。
もう完全に自分の出番が終わったと思い込んでいた陽人にとって、本当の精神的疲労はここからだった。




