あっという間のステージ
「…ゴー」
周夜が呟いた。
それと同時に千里が、奥にある閉ざされていた黒幕へ走っていった。
「みんな〜!!おっまたせ〜!!!」
そこからは圧巻だった。
左右外側から2本ずつ昇っていく火柱。千里がステージのセンターにたどり着き、ジャンプすると同時に彼女の背後から派手に一本の火柱が立ち昇った。
歓声も今までに無いほどの盛り上がりを見せている。
「…まるでアイドルのライブみたいだな」
千里が出て行った黒幕を捲り、ステージを眺めていた陽人の口から思わずありきたりな感想が溢れる。
「ですよね。私もいつも感心します」
陽人の背後から、同じようにステージを眺めていた周夜が反応する。
「この演出、全て彼女が考えたものなんですよ。私では思いつかないような派手な演出、そして彼女の底抜けに明るい性格とモデルに負けないルックス。彼女はこの三校で、アイドルのような存在なんです」
まるで自分の事のように嬉しそうに語る周夜。その目は、娘を見守る父親のような優しい目をしていた。
「じゃあみんな!今から特別ゲストを紹介するよ!」
いつの間にか手に持っていたマイクを使ってフリートークを広げていた千里が、ステージ袖で見ている陽人にウインクを飛ばす。
「…ほら日笠さん、そろそろ出番です」
「え…?」
陽人の背中を優しく押す周夜。振り返ると、いってらっしゃいと言わんばかりに彼の手が振られる。
覚悟を決めて、ステージのセンターへと歩き出す。
陽人が千里のもとへ歩き始めたところで、彼女は観客の方を向き直して陽人の説明に入る。
「VITでの遭遇戦が初めての中!武器を持たずに“先見の狙撃手”こと秋月桜さんの攻撃を躱しきり、個人遭遇戦前回優勝の菜季戸久津さんを倒し、さらには“刹那”こと対峙した皆さんのトラウマ!朝霧霞さんとの激戦の末、見事勝利を飾った文句なしの新しい個人遭遇戦優勝者…謎の転入生、日笠陽人さんです!!」
ひとしきり陽人の自己紹介が終わったところで、陽人がステージ袖から姿を表す。
「「「ワァァァァァァァァ!!!!!」」」
彼が姿を現すと同時に今までに無いほどの大歓声が巻き起こる。よく聞くと、歓声の中に指笛や拍手の音も聞こえる。
「すげぇ…まるで自分がアイドルにでもなった気分だ」
観衆の勢いや熱気に圧倒されながら、何とか千里のもとに歩を進める。
「はい!ご登場ありがとうございます!!では早速ですが、今回の遭遇戦の感想をお聞きしても良いですか?」
陽人が登場して少しして歓声が落ち着いてきた頃、千里が感想を求めてマイクをこちらに向けてきた。
「そうですね…。正直全部運が良かったというか…俺自身、どうやって勝てたのか未だに理解が追いついてなくて…」
これが感想で良いのかと思いつつ、正直な心境を言葉にする。
千里はこんな状況にも慣れているのか、ウンウンと頷きながら共感してくれる。
「なるほど…その気持ち私も分かります!私も先程挙げた功績がもし自分のものだとしたら…陽人さんと同じことしか言えないと思います!」
千里の言葉を聞いた観衆からドッと笑いが起きる。
そこから何度か質問を重ね、気付けば千里と共にステージ袖へと戻っていた。




