慌ただしい裏側
先程の部屋を後にして少し廊下を歩いていくと、壁一面に広がった木製の高級そうな扉の前に来ていた。
「こちらに来てください」
周夜はそのすぐ近くにある勝手口のような扉に入っていく。
ちなみに千里は
「うぅ…まさかシューくんだけじゃなくて、陽人くんにも無視されるなんて…。私はただあの瞬間をキレイに切り取っただけなのに…だけなのにぃ…!」
めちゃくちゃ項垂れていた。
「あの…陰森さん、なんかすいません」
陽人自身悪いことをしたつもりは一切無いが、一応何となく謝っておく。
「はう!?…良いんです、謝らないでください…。私が悪いんです…」
謝るのはダメだったらしい。千里の丸まった背中がビクッと反応し、綺麗な銀髪がサラサラと背中から落ちていく。
「ちょっと千里早く来て!千里がいないと何にも始まらないよ!!」
何やら騒がしい部屋の中から、周夜の声が聞こえる。
「あ、うん分かった!今行く〜!」
周夜の声に反応した千里が、顔をあげて駆け足で彼の元に走り出した。
それを何となく眺めていると、急に手が引かれる。
「おっ!?」
「ほら、陽人くんも一緒に来て!今日から君が主役なんだから!!」
千里が陽人の手を取り、ニッと笑う。
そのまま部屋の中に入り、二人で周夜の方に向かった。
中に入るとそこは、まるで舞台の裏方のような場所だった。
薄い壁の向こうから聞こえる騒がしい歓声。狭い通路の中には様々な機材や段ボールが置いてあり、照明も所々に剥き出しの蛍光灯があるだけだった。
「やっときた。じゃあ千里、この台本お願いね」
「うん、ありがとう!」
2人に気が付いた周夜は、千里に一枚の紙を渡す。
「日笠さんはまた後でお呼びしますので、ここでゆっくりしていてください」
陽人には、すぐ近くにあった丸椅子を差し出してそこに座るように促す。
「あ、ありがとうございます」
陽人は素直に丸椅子に座り、部屋の中を軽く見回してみる。
周りを見ても大人は一人もおらず、ここには陽人と周夜、千里の3人しかいなかった。
何かの機材を操作する周夜、照明の下で渡された紙を読み込んでいる千里。
2人とも意識はしていなさそうだが、まるで舞台の裏方を写すドラマのワンシーンのように絵になっている。
歓声と周夜の作業する音、そしてこの光景に夢中になっていると、千里が自信満々な声を出した。
「……オッケー、シューくん!こっち準備できたよ!」
「…分かった、じゃあいつものようにタイミング合わせてね」
そして合図もなく、2人の息のあったカウントダウンが始まる。
「「…3、2、1」」




