ただの初めての通学
家を出て少し歩くとビルや娯楽施設が建ち並び、気分が沈んでいた陽人もテンションが上がってきた。
「やっぱ何度来てもこの辺りは賑やかだよなぁ」
陽人の住む第三発展都市部は若い学生がとても多く、若者受けの強いおしゃれなカフェやゲームセンター、ショッピングモールなどの産業が非常に発展しており、常に流行の最先端を行くことで有名な場所になっていた。
引越しして間もない頃、学校の下見を兼ねて遊びに来たことがあるのだが、その時はあまりの賑やかさにとても興奮し、貴重な生活費から3万少し溶かしてしまったことも記憶に新しい。
家から歩いて約10分、気付けば周りには陽人と同じ制服を着た学生が多く見かけられた。
陽人の通い始めた第三発展都市高等学校、通称“三校”は魔法や魔力についての教科に特化しており、魔法の研究をする職に就きたいという生徒が主に通学している。偏差値が非常に高いため、企業からも一目置かれるほどの学校だった。
校舎自体は他の企業ビルとあまり変わらない見た目をしており、初見では学校と思えないだろう。
他の生徒の動きに流される様に、同じ建物に入り、そこからすぐに全く別の方向に向かう。
この建物には職員用や来客用の玄関などないらしく、この出入り口から入る様に先日の打ち合わせの電話で言われていた。
(普通に気まずいからあんまり見られたくないんだけど…)
ただでさえ知らない人に囲まれているのに、見られるだけで誰かに声をかけられるわけではない…もうやだ帰りたい。
ただ本当に帰るわけにはいけないため、背中に感じる好奇の目に耐えながら、とりあえず職員室に向かった。
「おはよう、日笠くん」
職員室に向かう途中、後ろからやけに優しい声がした。
振り返るとそこにはガタイの良い優しい雰囲気を纏った中年の男性が、ニコニコしながら立っていた。
「あ、おはようございます。…どなたですか?」
「ああ、僕は志度優、前に電話で話したんだけど、覚えてない?」
「あ、あの時の…」
確かに前に話した時の声や口調にそっくりだ。
「いやあごめん。僕は書類で君の顔も知ってたけど、君は僕の顔までは知らなかったね」
なるほど、それならこちらが知らなくても納得できる。
(あれ、でもさっき後ろから…)
「じゃあ早速クラスや学校について説明するから、ちょっと来てもらえる?」
何か頭の中で引っかかっていた気がするが、一旦置いておくことにした