表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・フェイカー  作者: ニシイパスコ
その世界、夢でも幻想でも非ず
28/100

どこかの経験 その2

「うん、お願い」

陽人は先程の話を頭で整理しつつ、次の言葉を促す。

「もう一つ。お前は魔力を放つ時、ちゃんと魔力を纏めておるか?」

「ちゃんとやってるよ。ていうか纏めないと、魔力がバラけちゃうじゃん」

老人の問いかけは、陽人にとって常識に近いものだった。

と、思っていたが。

「そうか…では質問を変えよう。お前は魔力を放つ時、“集めた魔力が100%相手に届くよう”に、何か対策はしておるか?」

「えっ、と……」

(そこまで考えてなかった…)

と言うより、そこまで魔力に対して深く知らなかったと言うべきか。

返答に困る陽人に、彼が合づちを打った。

「ほう…では、一つ手本を見せてやろうか」

そう言い、陽人から数メートルほど距離を取る老人。

「今からお前に魔力を放つ。それを正面から観察し、その身で体験してみぃ」

振り返った老人は陽人の方に両手を伸ばした。

周囲から集まった魔力は彼の手のすぐ前に集約し、少ししてその魔力が小さく纏められていく。

「すげぇ…俺と全然違う」

彼の集める魔力は陽人の何倍も多く、それが巧みな技術でどんどん凝縮されていく。

陽人の放った魔力の、丁度半分くらいの大きさになった時、老人の魔力に何かが施されて陽人に放たれた。

(…さっきの、何をしたんだろう?)

一瞬考え、今の自分では結論に至らないと思った陽人は、自身の前に魔力を集めて纏め、結界を作る。

“魔力を集める”という作業は陽人にとって初めてだったが、案外イメージ通りにでき、軽く拍子抜けした。

少しして、陽人の結界と老人の魔力がぶつかった。

「え、ちょ…!?」

二人の魔力は少しの間鬩ぎ合っていたが、異常に硬い彼の魔力は陽人の結界にどんどんめり込んでいき、そのまま結界を貫通していった。

勢いそのままでに迫ってくる魔力に対し、陽人は目を閉じて身構えていたが、しばらくしても衝撃を感じる事はなかった。

「はっはっはっ。わしがお前を傷付ける訳無かろう」

暗闇の中、陽人に掛けられた声はとても優しいものだった。

恐る恐る目を開けてみると、陽人の目の前にはとても穏やかな顔をした老人の顔があった。

「爺ちゃん…。さっきの魔力は…?」

「そんなの、お前の結界を破ったすぐ後に霧散させたわ」

そう言い、ハッハッハッと大笑いする老人。

さすがと言うべきか…彼の魔力の技術は陽人とは比べ物にならないほど卓越していた。

目の前で笑う老人に呆気に取られていると、一通り笑い終えた彼はにっこりと聞いてきた。

「で、わしの魔力はどうじゃった?」

「見た目の割にすごい詰まってて重くて…あと、めちゃくちゃ硬かった」

陽人の感じた素直な感想。それを噛み締めるように聞いた老人は、丁寧に話し始めた。

「そうじゃ。魔力が多く、十分に凝縮すれば重い一撃になる。そして、何かにぶつかっても簡単には解けんように、集めた魔力の周りに膜を作る。そのおかげで魔力を100%相手に届けることができ、攻撃の貫通力も上がる。わしの言う“魔力を纏める”とはそのことで、お前が硬いと感じた理由も纏めた結果じゃ」

「なるほど、集めた魔力の周りに膜を…。それって、どうやって作るの?」

「そりゃ…わしが教えることはできん。お前が自分で考えるんじゃ」

少し残念そうに言う老人。彼のその顔にはなぜか哀愁が漂っていた。

「それって…何か理由が?」

「いくら血が繋がっておっても、わしとお前が別人だから…理由はそれだけじゃ」

(どういうこと?感覚とかも教えられないのかな…?)

そんな疑問を脳内に抱いたが、彼の顔を見るとそれを口にする気はなぜかなくなった。

「わかった。じゃあ今からやってみるから、みて…て…」

突如陽人を襲う倦怠感。急に離れる意識に陽人は何も抵抗できず、そのまま陽人の意識は遠くのどこかに飛んで行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ