表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・フェイカー  作者: ニシイパスコ
その世界、夢でも幻想でも非ず
26/100

科学者の行方

「俺にとって、分かりやすい…?」

「はい。親しみやすい、って言った方が良いですかね?」

そう言われても、陽人の頭からハテナマークが消えそうにない。

そのことが凰牙の方にも伝わったのか、苦笑いしながら陽人に言う。

「まあ、見たらきっと分かりますよ。それよりこれ、ちょっと読んでみて下さい」

手に持っていた本を、ベッドで上半身を起こしたままの陽人に渡す。

これを読めば良いのか…?

手渡された本は案外軽かった。軽いと言うより、まるで空気を持っているみたいで、何かを渡された感覚が全くない。

「…全然重くない。何なんですか?これ」

「これが“経験”です。文字と本のおかげで認識は出来ても、結局は実体の無いもの。多分、そう言う事なんだと思います」

その凰牙の言い回しに、陽人は少し引っかかりを覚えた。

「それって…月代さんがここを作った訳じゃないんですか?」

「あっはは、違いますよ。私も日笠くんと同じように、ここに飛ばされてたんです。その時の私は理性を失っていましたが、腐っても科学者。こんな不思議な場所に来ては、考察するなと言う方が無理な話です。結果、“事実に近いであろう考察”をどこまでも広げていたんですよ。ですから細かいところの真相は分かりませんが…おそらく、全てが見当外れって訳では無いと思いますよ。ちゃんと実証を重ねたデータ上での考察ですから」

どうやら凰牙は、今までこの世界について調べ尽くしていたらしい。

「そう、ですか…」

また視界を手元の本に戻す。よく見るとその真っ白い本の輪郭は半透明になっており、ずっと持っていたら消えてしまいそうな気がしてくる。

「…この話もそろそろ終わりにしましょう。私は少しここで本の整理をしていますので、何かあれば聞いて下さい」

陽人から離れ、近くの本棚で何か作業を始める凰牙。それを尻目に、意を決して本の表紙に手を当てる。

まるで空気をつまむような感覚。開きにくい事この上ないが、少し時間がかかって本の表紙が開かれる。

(何だ?全部真っ白…?)

表紙の次のページには、文字もイラストも…何も書かれていなかった。

苦労しながらさらにページを捲る。何ページ先を見てもそこには文字は書かれておらず、真っ白な見開きが広がる。

そしてついに、なにも書かれていないままでその本の閲覧は終わった。

「あの、月代さん…?」

これ、何も書いてないんですけど?

そう言おうと思った陽人の口から、続きの言葉が出ることはなかった。

「あ、れ……?」

急に襲いかかる激しい眠気。それは一瞬で陽人の身体から自由を奪い、力なくベッドに倒れる。

「おやすみ、きっと良い夢を見られるよ」

徐々に閉じていく瞼、暗くなる視界の中で、凰牙の静かな声が陽人の全身を優しく包んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ