挑発系男子、陽人イラつく
「はぁぁぁぁぁ!!」
お互いに見合うことはなく、陽人がすぐに動き出す。
刀を前に突き出しつつ突進して来る陽人への、男の反応は冷静なものだった。
「こんなものなのか、菜季戸を潰して威張るやつの実力ってのは」
全身に魔力を纏わせた陽人の渾身の一振りを一歩も動くことなく、軽々しくその場で払う。
お互いの赤黒い刀は一瞬こそ交わったが、すぐに離れていった。
「…っ!」
刀を真横へ弾かれた陽人は重心が前に崩れ、男の脇を倒れながら抜けていく。
その様子を冷たい目で見ていた男が、呆れたように口を開いた。
「よくそんな馬鹿みたいな弱さで、菜季戸を潰せたな」
「うるせぇ…余計なお世話だよ…!」
陽人が再度、同じように男に突進する。
(どこまでも馬鹿にしやがって…絶対一泡吹かせてやる)
言葉を交わすたびに激しくなる陽人の怒り。その気持ちは自身の身体にも伝わり、スピードも刀を振る強さも増していった。
「…馬鹿が」
ただいくら増しても、男の身体に刀が当たることはなかった。
「……嘘だろ、?」
それどころか今回は、刀を一瞬受け流し、そのまま鍔迫り合いに持ち込まれた。
両手で振り下ろした陽人の刀が、気だるそうに片手で振られた男の刀に吸い込まれ、更にはそれを押し切ることもできない。
「もう少し骨のある…せめて菜季戸と張り合えるやつだと思っていたぞ」
その一言が陽人の耳に届いた後、男の方から押し返される。
「な…!?」
少し後ろに崩れた重心。急いで刀を構え直すが、そこからは完全に男のペースに持ち込まれた。
陽人に急接近し、素早く刀を振る。陽人もそれに出来るだけ早く反応するが、刀が追いついた瞬間に強く弾かれる。
男の一振りはその細い見た目では予想も付かない程強く、一度払われただけで刀を手放しそうになる。
(こいつ、一体何なんだよ…!?)
男は刀を片手で振っている。それなのに、陽人の両手で振る刀の何倍も重くて速い。
ただおかしな事に、何度弾かれてもギリギリのところで刀が間に合う。
(これ、もしかして遊ばれているのか…!?)
気付いてしまえばそうとしか思えなかった。
よく見ると、男の刀が陽人の刀に合わせているようにも見えてくる。
(クッソ…馬鹿にしやがって…!!)
何度もの一方的な剣戟。言葉が有っても無くても男が陽人を挑発する姿勢は変わらなかった。




