答えが分かっていたとしても
「えっと、誰…?」
「どの道また会う、自己紹介はその時に取っておこう」
やっと脳が追いついた陽人の疑問を受け流す。
「それよりお前、武器は?」
「武器…残念だが、俺にそんな物はない」
「素手で、今まで生き残ったと?」
「そう…だな。木の枝とか、その場しのぎで使ったものはあるけど、基本は武器無しで戦ってきた」
「…頭が狂った奴も居るんだな。よくそれでここまで残ったな。よほどの柔軟さ…いや、豪運の持ち主なんだな」
常に相手を見下しているような言い方、こちらの苦労をバカにしているような言葉に、さすがの陽人もイラつきを覚えた。
「さっきから何なんだよ、人を馬鹿にするんなら他を当たってくれないか?これでも、菜季戸先輩を…」
「あの奇襲にしか脳のないゴリラがどうした?あれを潰せたことを、まさか誇りにでも思っているのか?」
いくら転入生が勝てたとはいえ、菜季戸は前回の優勝者。その強さは紛れもなく三校トップを名乗るのにふさわしいはずだ。
「……何が言いたい?」
「いや、丸腰で倒せたと言っても…凄いとは思うが、それがどうした。程度の評価でな」
どこまでも陽人を馬鹿にする発言。ただ、菜季戸に対しては辛辣さが更に強かった。
「お前…いいかげんその口閉じないと、後悔させるぞ」
「後悔、か。そうだな、出来るなら後悔させてみろよ。今のお前に可能ならな」
「……!?」
一瞬布が擦れる音、顔を小さな風が撫でる。
気付けば首元に、何か冷たいものが当たっていた。
「こんな簡単に首を取られるやつが、俺より強いとは思えないが…?」
確かに…今の陽人がこの男と戦っても5秒も耐える事ができれば奇跡だろう。
その圧倒的な戦力差を目の当たりにした陽人だが、それでも素直に自身の弱さを認めたくはなかった。
「分からないだろ…やってみないと」
「そうだな。お前の豪運がどれほどのものか、見ないことには何も言えないな」
近くから発せられる殺意が急に無くなり、身体の緊張が解ける。
そしてやっとマジマジと見れた男の顔は、意外にも少し可愛らしいものだった。
大きめの吊り目と、そこから覗かせる茶色の瞳。小さい口鼻と、シミ一つ無い白く綺麗な肌。
陽人より少し小さい体には、細身ながらもしっかりとした筋肉を感じさせる。
ただ着ていた服は、激しい戦闘後のようにズタズタに引き裂かれまくっていた。
「なんだ…?その服」
「そんなこと今はどうでもいい」
男が陽人の足元に何かを投げ捨てる。
「…刀か?」
「今回だけ特別に武器を渡してやる。せいぜい健闘するんだな」
そう言った後、腰を落として同じような刀を構える男。陽人もそれに倣って刀を構える。
(こいつだけには…負けるわけにはいけない)
頭の隅でよぎる2人の実力差。あれを見て尚、陽人の戦う気持ちが揺らぐことはなかった。




