迷い人の跡地訪問
どれだけの時間が過ぎたのだろう。
いまだ森の中で彷徨う陽人の心中には不安が立ち込めていた。
「いくらなんでも誰も居なさ過ぎるだろ…まだ終わってないよな…?」
菜季戸との戦闘からしばらく経ち、その後何度か出会う人と戦闘をしていたのだが、最後の人と戦い終えて体感で5時間は経過していた。
空を見ると陽が少しずつ傾き始めている。VITの中はどこまでも現実を再現していた。
「まさか…実は全部終わっているけど、機械のバグで俺だけ取り残されたとか…無いよな?」
そんな考えに至ってしまうこの現状。だがVIT関連のニュースでバグなんてもの聞いた事なかった。
「…いや、こんなこと考えるのはやめよう。どの道俺に出来ることないし、てか怖くて考えたくないし」
予想でしかない、それも現実味の薄い話だ。可能性があるにしても考えるだけ無駄だろう。
そう結論付けて少し歩いていると、遠くの場所から何かの爆発音のような音が聞こえた。
「…なんだ?もしかして他の場所で戦っている人がいるのか?」
久々の自分以外から発した音。単純に強い興味を惹かれた陽人は、音の発信源が見える場所を探し始めた。
そこが見える場所は割と近かった。探し始めて5分と掛からない場所から、何かの建物が見えていた。
「なんだ、あれ…!?」
森を抜けてすぐのところ。そこには灰色のコンクリートで出来た建物があった。
三階造で長い時間を感じさせる出立ち。その最上階の一室と思わせる場所が、ピンポイントで粉々になっていた。
天井はともかく、外壁も吹き飛んでいる。床も無数のヒビが入っており、いつ崩落してもおかしくない。
未だにそこだけ砂煙が舞っていることから、元からそういう建物でもなかったのだろう。
(思ったより近そうだし…ちょっと行ってみるか)
人の興味とは現金なもので、何もやることのない陽人は建物の方に歩を進めた。
一つ崖を降り、森をすぐ抜けた所に目的の場所はあった。
「おぉ、思ったより大きいな…」
高さはうちの学校の方が遥かに高いが、その分一階あたりの面積が大きい。
例の壊れた場所さえ見えなければ、どっしりと構えるその雰囲気は悪いものではなかった。
「…誰だ」
背後から聞こえた底冷えしそうな低い声。急に強い殺意をぶつけられた陽人の身体は硬直してしまう。
「誰、って…」
やっと開いた口から、意味のある言葉なんて出るわけなかった。
「まあいい、向こうでまた聞けばいい」
先程に比べ少し落ち着いた声音。陽人の視界に映ったその主は、なぜか収まりきらない怒りを浮かべていた。




