後出しじゃんけんの必勝法
「面白いねぇ…僕もちょっと本気出そうかなぁ!」
途切れる事ない矢の猛襲、蛇のように襲いかかる男の攻撃を、志度は避け続けていた。
「そんな舐めた動きで勝てると思っているのか?」
「あいにく勝ち負けに興味なんて無いんだ。二人と遊べるのが幸せでね」
「ほざけ、殺すぞ」
殺意に染まった目。大きく開いたその瞳には、志度の楽しそうな顔が写っていた。
(わぁ、我ながら酷い顔だ)
普段ならまず見せない、狂気じみたその笑顔に志度本人も気味悪く感じた。
気持ち速くなった男の剣に、何度か刀を交え始める。
狙撃にも対応しなければいけないので、どうにも攻めに転じることができない。
(相方が桜くんなのが厄介だなぁ…。それぞれタイマンなら強気を張れるんだけど)
志度の中で“霞”と“桜”のペアは最も避けたい人選だった。
二人とも学年は2年生ではあるものの、3年生のトップ勢に引けを取らない実力の持ち主。
特に桜の“後衛”としての強さは他を許さない。まるで相方の思考を読んでいるかのような完璧な支援、牽制、決めの一手こそ、彼女の真骨頂であり、彼女が輝き続ける最たる理由だろう。
(しかもこの二人の呼吸…これは無理にでも攻めないとかなぁ?)
ちょうど目の前で男が大剣を振りかざす。
先程なら躱していただろうその攻撃を弾き返し、追撃するために一歩前に踏み込んだ。
「…バカが」
「なっ…!?」
その焦りの一歩が失敗だった。
ニヤリと笑った男の背後。どこからか現れた“それ”は可視化出来るほどの空気を纏い、志度の眼前を覆い尽くした。
「ほんと、切り札ってやつはどうしてこんなに厄介なんだろうねぇ…!」
志度が腰を沈ませ、全身の力を一瞬だけ抜いた。
支えを無くした身体は前に崩れ、人形のように倒れていく。
「クッソが!」
その動きを見た男がすぐに距離を取るため、何度も後ろに飛び続ける。
志度の周りを数えられないほどの矢が覆っていたが、恐らく何も意味を成さないだろう。
「…そんな顔しないでよ霞くん、桜くんも合わせて飛ばしてあげるから」
剣山のように矢が刺さった背中を起こし、志度は酷く醜い顔で笑っていた。
ーーー数瞬後、2人の居た部屋が音を立てて崩壊するのを遠くから見ていた少女は、いつの間にか真っ暗な世界に落とされていった。




