オジサン タノシイ ミンナト イッショ
「…胸糞悪りぃ」
先に動いたのは男の方だった。
床を蹴り、志度に接近するそのスピードは、少し離れていた彼の元に届くまで、時間はあまり掛からなかった。
「相変わらず、スピードだけは異常だよねぇ」
余裕の表情、ニヤリと笑った志度の左側にはいつの間にか血のように赤黒く染まった細い柱のようなものが立っていた。
「…っ!」
男の振りかぶった大剣は大きな金属音を鳴らし、志度の柱で動きを止める。
「ゴミが!」
一度後ろに距離を取り、次は身体の右側に大剣を構え、また志度に飛びかかる。
「君もほんと、ワンパターンだよね」
志度の左側に立っていた柱は霧散し、すぐに右側に生成された。
キィィンと同じ音が鳴り響き、男がまた距離を取るため後ろに飛ぼうとする。
「3回も同じことさせるほど、僕はバカじゃないよ?」
志度のすぐ前の床に、小さな血の池のようなものが湧き出る。
そこから赤黒い腕のようなものが3本ほど、男に向かって伸びてきた。
「ちっ…!」
先端が鋭い手のように、五又に尖っている腕を身のこなしだけで全て躱し、大剣で切り落とす。
着地し、男が志度に目を向ける頃には二人の距離は50センチほどまで詰められていた。
「なっ…!?」
「まだ終わらないでくれよ?全然遊び足りないんだ」
志度の鋭い突きが無防備な男の腹部を捉え、刀身が無抵抗に沈んでいく。
男はそのまま脱力し、動かないまま刀で持ち上げられる。
男の身体を貫通した刀はさらに赤黒さが増し、刀身全体に煙のような模様が動いていた。
「やっぱり僕にはこういうのが向いているのかなぁ…ほんとは死ぬほど嫌なのに、身体が疼いちゃって仕方ない」
楽しそうに、そしてどこか悲しそうに呟く志度の表情は、戦闘中とは全く違う複雑な心境を表していた。
「……おや?」
少しの間刀で吊っている男を見つめていた志度だが、何か異変を感じ取り、外の方に顔を向けた。
いくつかある割れた窓ガラスの向こう。何か迫っているものを認識した志度は、男から刀を抜き、素早くその場から離れる。
その直後、志度の姿を追うように、コンクリートの壁に3本の矢が突き刺さった。
そのうち1番近い矢は、志度の顔を掠める寸前の場所だった。
「まさか二人で来ていたとは…霞くんも少しは成長しているみたいで、おじさんちょっと嬉しいよ」
志度の嬉しそうな目線の先には、腹部を左手で庇いながら立ち上がった男の姿があった。




