オーガの特技とその弱点
一歩ずつ堂々と、ゆっくり近付いてくる菜季戸の身体。激痛で重くなった陽人の身体に強い緊張が走り、もはや指一本動かせなくなる。
時間が経つにつれ大きくなる大岩のような巨体、チカチカしていた視界がハッキリと鮮明に広がっていく中で、
オーガの顔は…疲れていた。
「これで最後だ…くたばれぇ!!」
ゆっくりと頭上に掲げた戦斧を、全身を使って振り下ろす。
(これ…まさか!)
頭に突如浮かんだ仮説が、陽人を緊張から追い出した。
ほんの少し軽くなった身体に鞭を打ち、這うようにして菜季戸の脇を抜ける。
直後に陽人の耳に響いたのは、爆発音。
チラリと後ろを見ると、戦斧が当たった地面には砂煙が柱のように舞い上がっていた。
(うっわ…!?ありゃあ確かに“圧倒的な威力の魔法”だな)
大方予想通りの光景に少し安心しながらも、予想以上の威力に恐怖を覚える。
菜季戸はきっと、極小範囲の魔法が得意なのか。
範囲を極度に狭め、その分威力に極振りする。頭に超が付くほどの脳筋戦法。
あの砂の柱も、戦斧が落ちる地面に地雷のような魔法を仕掛けていたんだろう。
志度の熱弁のお陰で一般的な中距離の魔法に警戒していたが、その心配はあまり意味を成さないかもしれない。
「それなら話は早い…な!」
そのまま全力で森の中を走り抜け、近くの茂みに飛び込み、手頃な木の枝に飛び移る。
「猿が人を弄ぶとは、滑稽な話もあるもんだなぁ!!」
少しして菜季戸の荒げた声が響き渡る。陽人を完全に見失ったか、ほかの理由か…いつだか陽人を追い始めた時よりも数秒遅れていた。
目標を見失った巨体が移動を止め、陽人の視界の中でキョロキョロしだす。
菜季戸が担いでいるあの戦斧、恐らく非常に重い代物なのだろう。
それこそ、菜季戸本人の重心を簡単に左右させる程に。
でなければ菜季戸の都合に合わない事象がいくつか出てくる。
なぜ菜季戸は追う時に跳躍しかしないのか。なぜ陽人を吹き飛ばした時に追撃せず、ゆっくりと距離を詰めてきたのか。そしてあの時、なぜ菜季戸の顔に疲れが写ったのか
恐らく菜季戸の足には身体強化という名のロケットが付いているんだろう。範囲は脚全体に絞り、時間は一瞬だけ、その分効果は爆発的に。
だから菜季戸は、追う時には少し溜めを作り、着地点まで止まれない。吹き飛ばした時も、地面ごと抉った上に戦斧が身体より後ろに出たせいで急失速した。陽人の場所までも距離が近かったために、跳ぶわけにもいかず、ゆっくり歩いて来るしかなかった。ここまで身体を張って戦斧を振り回すんだ、他の武器に比べればすぐ疲れるのも納得できる。
「…やっと見えた、しつこいロケットの攻略法が」




