前回優勝者の肉弾戦(ここは魔法・魔力に特化した学校です)
「あの人、容赦なさすぎだろ!」
結局菜季戸の脇を抜けるように駆け出した陽人だったが、彼が見逃すわけがなかった。
「ちょこまかと…どうやら私に、喧嘩を売っているようだな…!」
戦斧を肩に担いだ菜季戸はすぐにこちらに振り返り、少し身を屈めたかと思うと、バネのようにこちらに跳ねてくる。
(おかしいだろ!?何で俺より速いんだよ!)
確かに筋力では菜季戸に負けるだろう。だが、体重は陽人の方が軽いだろうし、何より向こうは戦斧を持っている。
素早さでは、無防備なこっちが有利なはずなのだが…。
「少し期待していたのだがな…。結局のところ、逃げしか脳のない猿だったようだな」
菜季戸の巨体はすぐに近付き、いつの間にか陽人の目の前に回り込んでいた。
「そんな可哀想な猿追い詰めるなんて、先輩もいい趣味してるんすね」
すでに構えていた戦斧の間合いに入らないように急ブレーキを掛けつつ言葉を返す。
「猿相手だとしても私の奇襲を避けられたのは初めてでな、少々舞い上がっているのは自覚している」
「あんだけの回避で舞い上がるなんて、ガタイに似合わず可愛いんすね…!」
軽く挑発の言葉を投げつつ、来た道を全力で引き返す。今の陽人にはそれ以外に取れる術が無かった。
(クッソ…このままじゃジリ貧過ぎる!)
何か使えるカードは無いか必死に辺りを探すが、周りには鬱蒼と生い茂る木々と、背後から超スピードで追いかけてくる菜季戸の姿しか無い。
(ちょっと待て、あれ走ってないよな!?)
近付く菜季戸の足元を注意して見ると、ほとんど地に足が付いておらず、“走る”よりも“跳躍”の方がしっくりくる。
(何だあれ、足にロケットでも仕込んでるのか…?)
変なことを考えながら走っていると、雑草が足に引っ掛かってしまい、勢いよく転倒してしまった。
「ろくに足元も見ずに走るとは、逃げにも脳が無かったか!?」
菜季戸はそのまま足を地面に着けること無く戦斧を降ろし、近くの地面ごと陽人を吹き飛ばした。
「がはっ!?」
地面の下から下腹部を殴られ、吹き飛んだ身体がそのまま近くの木に激突する。
前後から激しい鈍痛が走り、固まった空気と一緒に内臓まで体外に飛び出しそうになった。
脱落せずに済んだのは、地面を抉った時に戦斧の勢いが削がれたためだろうか。
(あんの野郎…何が魔法だよ…!?)
頭も強く打ったか、チカチカする視界の中でゆっくり近づいてくる菜季戸は、まさにオーガそのものだった。




