弓兵忍者の独り言
- 陽人に対する桜の初印象 -
EP 11
「あの人…確か転校生、だったよね」
女子生徒は木々を跳び渡りながら呟いていた。
彼女は制服の下から延びている灰色のフードを深く被っており、本人以外には表情も分からないだろう。
(彼は私の狙撃を分かっていて回避していた。私のいる方向も、狙う場所も、当たるタイミングまで…全部気付かれた上での動きだった)
今まで狙撃が外れた事があっても、偶然相手が軌道から逸れた事でしかなかった。私の存在がバレたことなんて今まで一度も無かった。
でも、最後の呼び掛けは、間違い無く私に向けられていたものだっただろう。
先程の戦闘を脳内で反芻する。こちらに気付かれるようなミスはあっただろうか…?
いつ、どのタイミングで気付かれた…?
考えれば考えるほど、自分が手の上で転がされているようだった。
えも言えぬ恐怖に背筋を凍らせていると、眼下に背を向けた生徒が歩いていた。
「よし…」
いつものように弓の準備をして構える。
その間、その生徒を視界から外すことはなかった。もちろんその生徒がこちらに気付くような素振りを見せなかった。
狙いを定め、軽く息を吐く。
いつもなら躊躇なく矢を射つのだが、先程の光景が頭をよぎる。
(もしかして、この人にも気付かれているんじゃ…?)
この生徒は先程と違って手に剣を握っていた。もし気付かれているなら、こちらの攻撃など容赦無く弾くだろう。
そうなれば、遠距離攻撃しか手段のないこちらの勝ち目は非常に薄い…。
(でもこの不安を他の戦闘、特にあの人との戦闘に引きずる訳には…)
実力に自信はあれど、彼女はトップという訳ではない。それに、今の自分では手も出ない存在がここにいることも知っていた。
(あの人に、せめて最善を尽くす為にも…不安は全部無くさないと)
迷い、震える精神を落ち着かせる。狙いを男子生徒の後頭部に定める。
こちらへの反応がなにも無いことを気付かれてないことと信じ、そのまま矢を射る。
放たれた矢はそのまま綺麗な直線を描き、真っ直ぐに彼の頭に刺さる。
狙い通りの場所に矢が刺さった彼の身体は、結局最後までこちらを見ることはなかった。
男子生徒は力を失くし、ゆっくり膝から崩れ倒れる。
そのまま身体が光に包まれ、弾ける。弾けた小さな破片はそのまま砂のようにサラサラと、細かな光の粒子が落ちていく。
VIT特有の死亡モーションを眺めながら、小さく理解する。
(この人は、やっぱり私に気付いてなかった。ならあの人は…)
魔法や実践については、この学園がトップを独走している。
(この学園の生徒でも、私の狙撃を見切る事ができるのはほんの数人)
ここまで理解できれば、残るのは一つの疑問だけだった。
(あの人、一体何者…?)




