所詮準備のしてないバトロワ初陣
陽人が奥歯を噛み締める。
(最初から負けるなんて…面白くないよな!)
後ろから弦の弾かれる音、前からは制服を着た短髪のガタイのいい男子生徒が飛び出してきた。
(まじか、思ってた以上に近付いてたみたいだぞ…!?)
ただ、今の陽人にはほぼ意味のない確認だった。
「…なっ!?」
飛び出した生徒が驚いてすぐに足を止めた。その生徒の足元に、どこからか飛んでいた矢が刺さっていた。
陽人は、なんの迷いも無く真横に跳んでいた。
「挟み撃ちしといて、正面からやり合うと思うなよ!」
そこから急に斜めに方向転換、目の前の相手に飛び掛かる。
目の前で茫然と立ち尽くしていた相手を押し倒すのは容易だった。そのまま転がる勢いで相手を自分の上に敷く。
後ろの弓兵から3回連続で矢を放つ音。どんな手練れかは知らないが、一般人の射撃スピードとは比べ物にならない速さだった。
そのすぐ後に三度の軽い衝撃、生徒の「ガハッ…!?」という苦痛の声から、狙撃は生徒に当たったことを確信する。
矢が三本刺さった身体は力が抜けていた。そのまま抵抗しない身体を投げ捨てる。急な状況変化にも関係ない正確な射撃、もし直撃していれば即死していただろう。
「早く出てこいよ!あんたの場所は察しがついているんだ、隠れたところでもう意味ないぞ!」
立ち上がりながら弓兵の居る方を見る。
正確な場所はわからないが、これだけでも遠距離戦術の人間には十分な牽制になるだろう。
「俺をやり損ねた上に、仲間を自分の手で失うなんて悲しいもんだな!」
いくら待ってもラチが開かないので、適当に挑発する。
すると勢いの無い矢が、陽人の足元に落ちてきた。
手紙らしいものが括り付けていた。矢文か…?
紙を開くと、黒いボールペンの綺麗な文字が書かれていた。
「私には、味方も仲間もいない」
…ハッタリか?でも、こんなことどうしてわざわざ…?
ふと気になって、投げ捨てた生徒の方を見た。
そこには矢が3本転がっているだけで、人の姿はどこにもなかった。




