表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・フェイカー  作者: ニシイパスコ
多様な命の在りかた
100/100

黒い影の呪縛

志度と二人で森の中を歩いていく。

戦闘中の時のような騒がしさは完全に無くなっていて、風で枝葉が揺れる音と足音だけが辺りに響く。

ただ…不自然に折れた枝や明らかに凸凹している地面から、あの戦闘も、化け物も事実だったのだと感じさせる。


「……霞と、何の言い合いをしていたんですか?」


先を歩く志度に、陽人が尋ねる。すると志度は、歩く足を止めないまま答える。


「この山にあった話は覚えてる?」


「…封印された化け物と、無名の勇者の話ですか?」


もちろん覚えている。昨日か一昨日の志度の話、そして…無名の勇者。陽人の記憶から消えることはないだろう。

陽人の言葉を聞いて、ほんの少し志度の頬が緩んだ様な気がする。


「そう。その話でね、ちょっと話していない情報があったんだ」


「その化け物の封印が、そろそろ解けそうだったって話ですか?」


小屋の中で話していた内容から、その辺りだろうか。


「…聞こえてた?」


「霞が完全にキレた時の声で起きちゃいましたから」


「そっか…。醜いところを見せちゃったね…ごめん」


志度が苦笑いを浮かべながら謝る。陽人は全く気にしていなかったが、何も言えなかった。

しばらく二人の会話は途切れ、ひたすらにどこかへ歩いていく。


「あの…どこに向かってるんですか?」


「言ったでしょ、頭冷やすついでって」


志度はそれだけしか言わなかった。彼自身も疲れたのかいつもに比べて、見るからに口数も元気もない。

そこからまた無言で歩いていると、開けた湖畔のような場所に出た。中央には少し大きい湖があり、それを大きく囲むように木が生えている。


「こんな所が…あったんですね」


あまりにも幻想的な景色に、陽人は少し言葉を失った。


「……そうだね。こんな綺麗な所があったんだよね…」


志度はどこか悲しそうな顔を浮かべ、湖の前で動かなくなった。


「…陽人くん、顔でも洗ってきなよ。きっと気持ちいいと思うよ」


そして、陽人に笑みを浮かべる。その様子に陽人は後ろ髪を引かれ、志度を問い詰める。


「…何があったんですか?いつもの志度さんとは全然違います。…話してくれませんか?」


「ありがとう。……ごめんね」


その謝罪は、どこの誰に向けられたものなのだろう…。ただ一つ言えるのは、今の陽人には話してくれなさそうだ。


「……分かりました。いつか話してくれるまで、ゆっくり待ってます」


この言葉が無意味だとしても、陽人自身の自己満足だとしても、今の志度を締め付けるとしても…少しでも彼の支えになれればと思う。

そのまま少しゆっくりして、二人はまた小屋へと戻り始めた。






「やっぱり、他人に尻拭いを任せるのは楽でいいねぇ…。こっちはちょっと封印ぶち壊すだけでいいんだもん」


フードを深く被った男が、ニヤリと口角を上げて呟いていた。

これで「ロスト・フェイカー」は完結となります。

続きもお付き合いいただける方は、「ロスト・フェイカー 2」をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ